以前、相続税の物納を申請したことがあります。物納の件数は年々減っています。理由は、こちらに書きました。
ところで、先日、知り合いの不動産屋さんに行きましたら、ある大きな地主さんが相続を機に底地を売ったということなんです。
数年前であれば、まとまった底地の数があれば物納を検討する状況だったのですが、底地を売ったということで、金額を聞いてちょっとびっくりしました。物納するよりも有利な金額で売却できていたからです。
今回は物納について考えてみました。
物納の件数は年々減っている

この図を見ていただければ分かる通り、物納の件数は年々減っています。一番大きい理由として平成18年の物納手続きの厳格化が挙げられますが、先日の不動産屋さんの話では、土地価格の上昇も大きいのではないかということでした。
相続税の納税資金の確保のために、相続後に底地(相手が借地権を持っている土地)を売ることはよくあります。
その相手先ですが、まず借地人に声をかけます。借地人は底地を購入すれば完全な所有権を取得できますから、自由に利用することができます。
ただそれが難しい場合は借地権と底地の共同売却、それらが難しい場合は安い金額でもいいので不動産業者(底地買取業者)に売ることを検討するということになります。
ただ底地買取業者は安い金額で買い叩かれてしまいますから、本当に最後の手段で、そのような場合は物納を検討することになるのです。
ただその底地を、不動産業者(底地買取業者)が高く買い取ってくれるのであれば話は別です。
<前提>
・自用地の時価…1億円
・自用地の相続税評価額…8,000万円
・借地権割合…60%
・借地権の相続税評価額…4,800万円(8,000万円×60%)
・底地の相続税評価額…3,200万円(8,000万円×40%)
底地を物納した場合、物納の収納価額(相続税の支払額)は、3,200万円になります。
これに対して、底地が4,000万円で売却できれば、譲渡所得税として約2割とられても、納税資金として3,200万円を確保でき、理論的には物納したのと同じことになります。
物納の場合は、測量費がかかりますし、原則として確定測量を求められるので余計な費用がかかります。これが底地の売却なら、測量も不要な場合が多いので、その意味でも有利になります。
数年前までは底地がそんなに高く売れるというのは考えられなかったのですが、近年の地価高騰により底地もそれなりの値段で売れる場合があるというのを実感しました。
こうなると税理士は、もう本当に物納なんて不確実なことはやりたくないですよね。
金銭納付困難理由書を必死に書いて、そこで却下されたら税理士のせいとか言われかねませんしね。

※青山にて(画像と本文は関係ありません)
依頼する場合は専門業者が良い
ただ、税理士が、どうしても物納をしなければいけない。また、物納を検討したい。そういう時には物納の専門業者の方に相談してください。
そんな業者の人がいるのかとお思いの方もいらっしゃいますが、バブル期は多くいらっしゃいました。実際お客様の過去の書類を見ていると、聞きなれない不動産業者に手数料を支払っていて、内容を聞くと物納の手続き費用だというのです。
実際、物納をやってみるとわかるのですが、実に様々なノウハウが必要です。ゴミ出しの場所の移動、上に電線が走っている場合どうすればいいか、借地契約書の作成、電柱番号の確認、庇の越境、地代の領収の確認などなど。売却する以上に大変です。
以前はそのようなノウハウを持っている業者さんも多くいらっしゃったと思うのですが、今現在は本当に一部の大手の業者だけがノウハウをお持ちだと思います。ですから物納の検討が必要な場合は、一定規模以上の大手のところにお願いするといいでしょう。
※私の経験上、事前相談ではそんなにお金はかからなかったと記憶しています。実際に物納が成功した時に、収納価額の3パーセント前後程度の報酬だったと思います。
なお、物納ではなく、高く底地買取業者に売れたとしても、業者も利益を追求しますから、当然、今までの地主さんよりも地代を上げるかもしれません。また更新料や建て替え承諾料も上がるかもしれません。
ですからその地域に根ざして、これからも住んで行こうという相続人の方がいらっしゃる場合は、その辺も含めて底地買取業者にお願いするのか、物納にするのかを考えていただいた方がいいかと思います。
物納は事前の準備が必要です。それも、確定測量や権利整理などで、数年以上かかる場合があります。実際、ある物納業者から資料を見せてもらったのですが、相続発生の数年前から、物納できるよう地道な作業を行っていました。
物納は、ほとんどの税理士には縁がないと思いますが、もしそのようなお客様がいるのであれば、一度、税理士を通して、専門業者に相談してみた方がいいと思います。