税理士してあれば、多かれ少なかれ誰しもミスをしたことがあると思います。
そのミスには数十万円というものもあるでしょうし、数千万円(場合によっては数億円以上)というものもあるでしょう。
以前、ある高名な先生の講演会に参加したのですが、その先生がある失敗事例についてこんな趣旨のことをおっしゃっていました。
「(その失敗事例は数億円以上の損害をお客様に出した、有名な事例なのですが)この失敗の総額はサラリーマンの平均的な生涯賃金を超えているような金額です。ですから金額だけを言うのであればこの方(失敗をした税理士)は、生まれてこなければよかったんじゃないか、と言えるかもしれませんよね」
これを聞いたとき、「厳しいことをおっしゃる先生だな~」と感じた思い出がよみがえります。
弁護士や税理士といった国家資格には、ある制限が加えられています。
それは「自己破産をすると資格を失う」ということです。
これに対して医師は、自己破産しても医師資格を失いません。
※この辺り、私が常日頃から申し上げている「医師資格最強説」ということになるのですが。
ですから税理士は、大きな失敗をしないようにしなければなりません。
また税理士賠償保険にも入らなければいけません。
ただ、それでもミス(失敗)は起きるものです。
私自身も色々なミスをしてきました。
なぜミスが起きてしまうのか。——それは「ミスに触れる機会が少ない」からだと思うんですよね。
今回から不定期で、不動産や相続にまつわる税務事例で、私が経験した(または実際に見聞した)特に間違いやすい点を、私なりにまとめてみたいと思います。
※守秘義務の関係で事実関係は変更しています。

※おもちゃ売場で人形遊びをする長男(3歳)
地主の不動産所得の計算には注意が必要
「地主」というと、なんだかものすごく土地をいっぱい持っていて、地代収入がめちゃくちゃ入ってくる人、というイメージがあるでしょう。
ですが実際は、ほとんどの方が慎ましく暮らしていらっしゃいます。というのも、地代収入が少ないのに、毎年、土地の固定資産税を払っているから所得があまり残りません。
特に駐車場は、住宅用地の特例を受けられないので固定資産税の負担が重く、正直、あまり儲からないと言っていいでしょう。
ですから地主様は、経費節約のため自分で確定申告をしている方も多く、税理士に依頼していたとしても報酬は高額でないことが多いです。
その結果、税理士の方もあまり注意を払わず、事務員さんに丸投げで申告している場合もあるでしょう。
更新料や建替承諾料に注意が必要
ただ、地主様で気をつける点があります。
それは、更新料や建替承諾料をもらった場合です。
更新料というのは、20年または30年に一度、借地人(土地を借りて建物を建てている人)が地主様に払う特別手数料のようなものです。普通の住宅地であっても、通常は数百万円以上になることが一般的です。
※更新料がない契約の場合もあります。
また、建替承諾料というのは、借地人が古くなった建物を建て替えるとき、地主様から許可をもらうためのお金です。こちらも住宅用地であっても数百万円以上、場合によっては1,000万円を超えることもあります。
これらはいずれも地主様の収入になりますから、不動産所得の収入に計上する必要がありますが、その時に「平均課税(臨時所得)」に気づけるかどうかが問題です。
(いわゆる「変動所得・臨時所得の平均課税」と言われる制度です。)

平均課税とは?
一時的に多額の収入があった場合、それを数年間にわたって受け取ったものとして見なし、所得税の負担を平準化する制度です。
所得税は超過累進税率ですから、一度に高額な収入を受け取ってしまうと税率が跳ね上がります。その歪みを調整するのが平均課税の趣旨です。
不動産収入が年間数百万円という比較的小規模な地主様・不動産オーナー様は、この平均課税に該当しやすいといえます。
もともとの収入が少ないなかで数百万円以上の臨時収入が入ってきた場合、平均課税の要件(臨時収入がその年の総所得金額等の20%以上)を満たしやすいからです。
もともとの所得が少ない方は、適用漏れでもせいぜい数十万円規模の損害、ということで、お客さんに謝れば許してもらえるかもしれません(許してもらえないかもしれませんが (T-T))。
年間の不動産収入が数千万円以上の場合は?
ここからは話が別です。
このような方で、貸地を複数持っている場合、20年または30年に一度の更新料を、毎年のようにもらう方もいます。
ただ、もともとの不動産収入が多いわけですから、平均課税の要件(臨時収入が総所得金額等の20%以上)を一般的には満たさないことが多いです。
しかし、多額の経費(大規模修繕等)を行った年は総所得金額が一時的に減少します。
すると、平均課税の可能性が一気に高まるんですよね。
実際、計算してみれば分かりますが、所得金額が数千万円以上ある方で、数百万円の臨時収入について平均課税を忘れると、所得税と住民税を合わせて数百万円以上の損害を与えてしまいかねません。
これに気づいた時の冷や汗感は、正直、味わいたくないですね〜。
更正の請求ができて救われた
この平均課税ですが、そもそも知らない税理士の先生も多いと思います。
また、知ってはいるんだけど、なかなか頭に出てこないものですから見逃してしまう、という先生も多いでしょう。
以前は平均課税の適用漏れ=即アウトでしたので、私も相当ピリピリしていました。
ですが、十数年前の税制改正で更正の請求が可能になってからは、だいぶピリピリ感が減ってきました(^^)
申告は毎年発生しますし、過去の申告書を見直す機会は意外とありません。
基本的には、税理士の先生が変更にならなければ見つからない類のものなんですが、そうは言ってもお客様に損害を与えてしまうということには変わりありません。
「不動産の確定申告は、報酬単価が低いから職員に丸投げだよ」とおっしゃる税理士先生もいらっしゃるかもしれませんが、平均課税についてはいま一度、見直していただければなと思います。
なお、私は冷や汗をかいた経験から、大きな臨時収入があった場合は、お客様のファイルに大きな黄色い付箋をつけておくようにしています。そうすれば確定申告のときに忘れません。日頃からの備えた大切ですね。