賃貸不動産で銀行が手のひらを返すときとは?

不動産と銀行借入は切っても切り離せない関係にあります。

地主様は自分の土地の上に銀行借入をして賃貸不動産を建てる。
また、サラリーマン投資家などの不動産オーナー様については、今ある物件を担保に入れて銀行借入をして新規物件を取得する。

不動産と銀行(信用金庫を含む)は常にセットで考えるべきですが、色々な場面で態度をコロリと変える、いわゆる「手のひら返し」をすることがあります。

一般の中小企業では、この手のひら返しはよくあることです。
社長さんが「先月までは“困ったら貸しますよ”と言っていたのに、今期の赤字の決算書を提出したら急に貸し渋りの方針になってしまった」とおっしゃることはよくあります。

賃貸不動産に関する勧誘についても、同じようなことが起きるのですが、その確率は一般の中小企業よりも極めて低いと思います。

ただ、私はお客様と様々な現場に同行し、当然銀行員とも何度も面談する機会がありましたが、その現場で実際に手のひら返しの瞬間に遭遇しています。しかも複数回。

今回は賃貸不動産について、銀行がどのような場合に手のひらを返すのかを考えてみたいと思います。

※某地方都市にて。


銀行員と税理士が会う機会は少ない

そもそも論ですが、一般の中小企業の借入であれ賃貸不動産に関する借入であれ、税理士が銀行員と直接会う機会というのはあまりないと思います。
基本的には、会社の社長様や不動産オーナー様が銀行と交渉するからです。
その過程で税理士に相談はされますけれども、税理士が銀行員に直接説明する機会は多くありません。

ただ賃貸不動産に限って言えば、次のような場面で税理士と銀行員が会う機会があると言えるでしょうか。

  • 賃貸物件を相続した相続人が高齢であり、銀行員との面談時に税理士の同席を希望する場合
  • 現在の金利が高いので、税理士が一緒に銀行に同行して金利の相談をしてほしいと依頼された場合
  • 家賃収入が減少し、借入の継続が難しいと想定される場合の返済リスケジュール相談で税理士が同行する場合

なお、税理士がお客様と銀行に同行するということは、お客様の家族関係や預金残高、ひいては総資産をある程度把握しておく必要がありますから、事前準備も必要です。
そのため、多忙を理由に同行を断る税理士の方もいらっしゃると聞いています。


返済予定どおりに返している時は何も問題がない

賃貸不動産については、建築時や取得時に建物の耐用年数などを基準とした返済期間で、きちんと返済していれば特に問題は起きません。
銀行側も、経年劣化による家賃収入の減少は想定して貸し付けていますから、よほどのことで返済が滞ってしまう(オーナーが遊興費や生活費を過度に使ってしまって返済できない場合等)ことがない限り、面談を求めてきません。

ほとんどのケースでは、個人所有であれば個人の確定申告書の写し、法人所有であれば法人の毎期の決算書の写しを銀行に提出しておけば、特に何も言われません。


担当者が2~3年で変わる

銀行の担当者は2~3年ごとにコロコロと変わります。
これは過度に親密になって不正融資につながらないようにするための施策だと聞いています。

ただ、そうすると、普通の方は困らないのですが、何か問題を抱えているお客様(返済猶予を受けている等)は、前任担当者に伝えていたことが後任にきちんと伝わっておらず困る、ということがたびたび発生します。


融資を「借り換え」するときの手のひら返し

以上を踏まえ、実際に私が体験した手のひら返しを考えてみます(守秘義務の関係で事実関係は若干変更しています)。

まず、借入の金利が上げられる(=下げてくれない)というケース。
ある賃貸不動産のオーナー様は先祖代々、複数の賃貸物件を持っていましたが、銀行借入がある程度残っており、その返済はきちんとしていました。
ただ、地方銀行から借りている金利が高かったんですよね。
それを「安くしてくれないか」と交渉したら、即座にダメ出し。

そこでお客様は別の地方銀行に、決算書を含めた資産状況をすべて伝え、金利交渉したところ金利が約1%下がりました。
もちろん借り換えには不動産担保の変更が必要ですから、その登記費用や登録免許税などもかかります。
ただ、それでも1%は大きいので実行することに。

すべて話が煮詰まり実行寸前になって、現在の金融機関に相談したところ、支店長まで出てきて——
「以前は本当にすいませんでした。先方の金融機関の条件と**同じ金利(同条件)**にしますので、借り換えはしないでください」
と必死な面持ちで言い出してきました。

ただお客様はめちゃ怒ってたんですよね((^^))。
結局、費用は余分にかかりましたが、借り換えを実行してしまいました。

このようなことがあるので、地主様や不動産オーナー様はご自身の金利が高いのか低いのか、相場観を常に確認しておく必要があります。


大きな物件を持っている方への手のひら返し

普通の税理士ではあまりないと思うのですが、多額の借入金が残っているにも関わらず、ある事情で返済が滞っていたお客様がいらっしゃいました。

私なんか「石橋先生がついているのに、なんでこんなことになっちゃったんですか!」と、四谷か神保町か、大手町が、かなり前なので、どこの支店なのか忘れてしまいましたが、そのあたりの銀行支店で支店長にめちゃ怒られた記憶があります。
※私が担当する以前からあった借入なんだから、もうしょうがないですよね (T-T)。銀行員からめちゃ怒られる税理士は珍しいと思いますよ (^^)

その後、お客様と相談して色々な方法でなんとか返済を終え、しばらくして銀行をたずねたところ、新しい担当者がこう言うのです。
「いや~、○○様には以前から大変お世話になっております。ぜひ新しい融資をご検討ください」

これを聞いて私とお客様は顔を見合わせました。
マジか~!」という感じで、ちょっと呆れ顔でしたよね。
この経験、私は2回あります。1回でも珍しいと思うんですが、2回経験してる税理士というのは本当に少ないでしょう (^^)


手のひら返された方は、めちゃくちゃ怒っている

銀行員の方も、前任者がどのような発言をしたかは当然すべて把握しているわけではありません。
そこら辺は引き継ぎ書類に書かれないことですからね。
でも、言われたお客様は一生覚えています。

ですから、銀行員の方のお立場が大変なのは分かるのですが、もう少し優しい感じでお客様と接していただきたいな、と思うことはあります。


税理士ができること

税理士も、銀行員の方と話す機会があれば、できるだけ真摯に礼儀正しく接するべきです。
そして、銀行内部でお客様がどのように評価されているかを、会話から探っていく必要があります。

「融資コンサルタント」という仕事がありますが、税理士は「税理士」という公的資格を持ち、銀行からの信頼が厚いですから、担当者は信頼して、言葉の端々で結構話してくれるんですよね。
そこから先はもう新聞記者が役人に取材するみたいな感じです。

「じゃあ、お客様は融資を受けられる認識でよろしいんですね?」
「(銀行員は“正式な審査が通るまで”は答えませんが)先生が恥をかくことはないと思いますよ。個人的な意見ですが」

こういう返答を得られたのであれば、かなりの確率で融資は通るのではないでしょうか。

税理士は税務申告をするだけではいけません。
お客様と金融機関がどのような関係にあるのか、現在の担当者の性格や温度感はどうか。
それらを踏まえつつ、お客様の今後の方針を一緒に考えていく必要があるでしょう。

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