税理士に「交渉力」が必要な場合とは、どのようなときでしょうか?
まず考えられるのが「税務署との交渉」です。
ですが、はっきりいって、税務署との話し合いに「交渉力」は必要ないと思います。
必要なのは、「誠意」と「知識」と「多少の度胸」です。
というのも、税務署の方と税理士とは、全くの他人というわけではなく、同じ土俵上(=税金の知識)で働く、いわば身内?や似たもの同士?になるからです。
※お勉強が好きものどうしで、お互い、あまり社交的でないので(税務署の方に失礼かもしれませんが・・・)、きちんとお話しすれば、話しが通じることが多いと思います。
ですが、税理士も、全くの他人、他業種の人と話すことがあります。
例えばですが、次のような方々です。
- 相続人
・・・相続税の計算で、普段税金と接点のない方に説明するのは、結構大変 - 銀行(信用金庫)
・・・新規借入、借入返済予定の調整(リスケ)等でお客様に同行 - 証券会社
・・・ご高齢のお客様とご一緒して、新規契約、解約手続きのお手伝いをする - 不動産業者
・・・お客様と一緒に(または税理士だけで)売買価額、税金問題について検討する
このなかで手強い?のが「不動産業者」です。
不動産業者のなかには、強引な営業、巧妙な営業をする方も、まだまだ多く、お客様をお守りするために、税理士も「交渉力」を身につけておく必要があります。
※もちろん、誠実な不動産業者もいますが。
今回は、税理士の「交渉力」について、考えてみたいと思います。
※隅田川からの風景
「不動産屋3人」VS「税理士1人」が喫茶店で打ち合わせると・・・
※守秘義務の関係で、少し事実をぼかして説明しています。
お客様宛てに、ある不動産業者から、しつこい営業が続きました。
具体的には、自宅インターホンへのピンポン攻撃です。
※何度も何度も訪問して「良いご提案があるので、ぜひ、直接ご説明させて頂きたい」というやつです。
要は「お客様のご自宅を買って、そこにマンションを建てたい」ということです。
彼ら(不動産業者)は、巧妙なセールストークをします。
まずは、使う用語が上手い。
「**地区の再開発事業計画のご案内」
なる「提案書」を作り、お客様と直接会えない場合、それをお客様のポストに勝手に投函したりします。
そうすると、お客様も不安になります。
- この土地が、強制的に買収されてしまうのかしら?
(役所による収用手続きと勘違いしますよね。再開発なんて表現は・・・) - もしかしたら、お隣さんが売ろうとしているのかも?
そんなこんなで、以前、お客様からのご依頼で「代わりに話しを聞いてきてもらいたい」というようになり、お客様の代わりに、不動産業者に話しを聞きに行ったことがあります。
打ち合わせ場所ですが、私の事務所に来てもらっても困ります。
※以前、別の事案で、ある不動産業者と、私の事務所で打ち合わせたら、ちょっと険悪な雰囲気になりました。外の、ある程度、公共の場で話した方がよかったな、という反省点がありました。
ですので、某高級喫茶店で打ち合わせをすることになりました。
※横文字のお店です(^^)
ああいう店って、立地にもよるんですが、色々な打ち合わせをしていて、混沌としてるんですよね。例えば、こんな感じです。
- ネットワークビジネスの勧誘をしている営業マン
- 怪しげな投資話を力説している営業マン
- 新しいパートさんの採用面接
そんな雰囲気の喫茶店に、到着しました。
相手の不動産業者が3人、私1人なので、計4人です。
※既に、不動産業者が席を取ってくれていました。
4人用のテーブル席に座り、打ち合わせが始まりました。
狭いテーブル席でしたので、まさに「膝詰め」での話し合いです。
※ここで膝詰めをしたくはないんですが・・・(^^)
※「ドラえもん」に出てきた「暗記パン」セット。
(本文の某高級喫茶店で出てきたものではありません)
交渉するために必要なものとは?
この打ち合わせでは色々な話しが出ましたが、きちんと交渉するためのポイントについて考えたいと思います。
知識が必要
不動産業者が買い取り価格を出す場合には、色々な方法が考えられます。
公示価格ベースの場合もありますし、路線価を現地の数件の売買実例金額で比準させる方式もあります。
乱暴な業者ですと、某不動産鑑定会社の「見積もりシステム」の結果を、そのままお客様にお渡しする方もいます。
※建物査定金額、建物取壊費用、引越費用等、考慮・調整すべき項目が多数あるのにです。
ですから、業者が出してきた「提案書」なる文書を見て、税理士が今まで見てきた不動産売買の相場観と乖離していないか、確認する必要があります。
そのため、公示価格や路線価、さらには固定資産税評価額の仕組みについて、最低限、知っておく必要があります。
また、税理士ですから、税金の知識も必要です。
居住用財産の買換特例、3,000万円控除といった知識も、最低限、身につけておくべきです。
下調べも必要
たまに、失礼な業者もいて、(言葉には出しませんが)
「(こんな高い金額で買い取ってやるんだから、すぐに)売っちゃいましょうよ~」
という態度で来る人達もいます。
その場合ですが、私の場合、事前に、そのお客様の土地建物の謄本(抵当権の情報も含む)を取ります。
さらに、お隣さんと、さらにそのまたお隣さんの土地建物の謄本を取ったりもします。
不動産業者がマンションを建てる場合、できるだけ土地をつなげて、大きい土地を確保しようとします。
※その方が収益率が上がるからです。
まずは、そのお客様の謄本を見て、抵当が入っていない(=銀行借入がない)ことを確認。
次に、お隣さんの謄本を見ると、(たぶんですが)**円くらいの借入金が残っているのではないか?と確認。結構、経営が苦しい?
※ここらへんは、税理士であれば多くの中小企業、個人事業を見ていますから、だいたいの借入金残高が分かるかもしれません。
さらには、お隣さんのお隣さんの謄本を取得。こちらも借入が残っていることを確認。
そうすると、色々な想像ができます。
「・・・既に、お隣2件は話しがついていて、後は、こちら(お客様)だけになっているのではないか?」
といったような想像です。
この場合、色々な反論が考えられますが、このような失礼な態度をする不動産業者には、
「**様の土地建物の謄本をご覧になってますよね。**様の土地建物はご存じのとおり、抵当が入ってないんですよ。つまり、お金には困っていらっしゃらないんですよ。売り急いでいないんです。ですから、そんな急いで売っちゃいましょう、なんてお話し、私は**様にお伝え出来ませんよ~」
というふうに反論してみました(^^)
そうすると、業者も
「これは大変失礼致しました。確かに、**様の謄本には、抵当権がついていらっしゃらなかったです。そうしましたら、**のようなお話しはいかがでしょうか?」
というように、また別の提案をしてきたりますが・・・。
ここで言いたいことは、
「事前に調べられることは、全て調べておく」
ということです。
そうすれば、より有利な交渉をできるかもしれませんので。
場数も必要
事前のお勉強、下調べも必要ですが、場数(経験)も必要です。
さきほどのようなお話しですが、10年前の私であれば、(びびってしまい)できませんでした。
これは、場数をかなり踏んだ結果です。
色々なお客様と、色々な場所(不動産屋、銀行、役所、取引先)に行き、その都度その都度、
「こう打てば、こう響くんだ」
と経験し、身につけてきたものです。
ドラマのように、普段は弱々しいのに、本番だけ急にスイッチが入って別人になるなんてこと、ありません。
少しずつの経験(=場数を踏む)ことで、「3対1」という状況でも、冷静に対応できるようになるんですね。
※葛西臨海公園の水族館にて。
本当の交渉力をつけるためには、独立開業するしかない
なにか、上目線で書かせて頂いていますが、私が言いたいことは、
「開業税理士にしか、できないことがある」
ということです。
勤務税理士の場合、(私の場合、特にそうだったんですが)
- 責任は上の人がとるからいいだろう
- 税金計算が本業だから
- お客様がたくさんいるので、全部の人に時間をかけられない
- 頑張っても、お給料が上がるわけではないし
- 余計なことをしたら、所長先生から怒られる
ということがあります。
※特に「余計なことをしたら、所長先生から怒られる」というのは、私は特に気にしていました。
ですが、開業したら、全ては自分の責任です。
そして、自分(税理士)の判断が、お客様の将来を左右するかもしれません。
ですから、開業税理士は、何か出来事があったら、そのつど学習し、記録しておくと良いでしょう。
※例えば「**という出来事があったが、こうすれば、もっと良い結果が出たのでは?」というようにです。
そうすれば、自然と「交渉力」が身につき、お客様のために貢献できるようになっていくと思います。
私なりに「交渉力」を定義すると、
「お客様のために、(本業の税金計算から)ちょっとはみ出すこと」
だと思います。
税理士は税金計算だけやれば良い、という時代は終わりました。
税金を軸に、他分野の知識を広げ、それをお客様に還元する。
はみ出すことは、自分に裁量権がある「開業」税理士にしか、できません。
これは、私が開業して良かったと思っている、数少ないことです。
※反対に、苦労は、ものすご~くあるんですが(>_<)
交渉力を身につけたい方は、開業することを、オススメします。