税理士が実務を行う上で、注意すべきことはたくさんあります。
その中で、税理士が特に注意したいのが不動産の譲渡所得です。
譲渡所得の実務書は多く出ていますが、 各種特例や個別事項に紙幅を割いていて、相談を受けた時の具体的な注意点が書かれていません。
そこで今回は、税理士がお客様から不動産の売却予定を聞いたときに、注意すべき事項について考えてみました。
※皇居前にて。某役所からの帰り道。
「売却する前に必ず連絡してください」と伝える
譲渡所得は金額も大きく、かつ、各種特例を受けるために事前準備が必要な場合もあります。
そのため、一般の方は、身近に税理士がいるのであれば、事前に必ず相談すべきです。
このことは税理士にとっては常識なのですが、お客様にとってはどうでしょう?
私は過去、いくつか失敗をしています。
それは、お客様に
「売却する前に必ず連絡してください」
という案内を「強く強く」しなかったことです。
もちろん、どのお客様に対しても
「税金が増えたり減ったりしますから、売却前には必ず相談してくださいね」
と、アナウンスはしています。
ですが、 若かりし頃は(今でも若いつもりですが・・・)、
「お客様の顔を見て、ご理解されているか、きちんと確認する」
ということができていなかったんですね。
結果として、売却前にきちんとご連絡頂けず、税負担が増える結果となってしまいました。
そのため、税理士が売却(譲渡)を察知したら、口頭だけでなく、書面でも説明すべきでしょう。
※書面といっても、箇条書きのメモ(説明した日付が入っているもの)で十分だと思います。
※夜の秋葉原にて。パソコンのパーツが急遽必要となったため、買い出しに行きました。
他の不動産を持っていないか確認しておく
平成16年度の税制改正で、不動産(土地・建物)の譲渡損失について、他の所得(不動産所得・事業所得・給与所得など)との損益通算ができなくなりました。
そのため、不動産の譲渡損失は、そのままだと切り捨てとなってしまうため、有効活用したければ、同一年内の不動産の譲渡所得にぶつける(相殺する)必要があります。
よって、お客様が他に不動産持ってるのか、口頭で確認しておく必要があるでしょう。
また、含み損(譲渡損失が出そうか)についても、併せて確認します。
これらを怠ると、数百万円(場合によっては数千万以上)の節税ができたのに・・・、という事態にもなりかねません。
なお、複数の不動産を同一年内に売却するというのは、税理士側も気を使います。
特に年末になって、どちらか一方の不動産の売却が決まりそうな場合、もう一方の不動産について売却が決まるか、結構そわそわしたりします。
ここら辺は、お客様との関係性にもよるのでしょうが、場合によっては、 税理士の方から、不動産仲介会社に直接電話して、趣旨を説明して、同一年内に売却できるよう、早めに動いてもらうといったことも必要になるでしょう。
特例の適用がないか確認する
譲渡所得については様々な特例がありますが、街の個人税理士が関係するのが、次のようなものではないでしょうか?
- 居住用財産関係(3,000万円控除、空き家、買換え)
- 収用の5,000万円控除
- 交換
- 平成21年から平成22年に取得した土地等を譲渡した場合の1,000万円控除
他にも様々な特例がありますが、これらの特例は当初申告で適用しないと駄目なものがほとんどですから、特に気を使います。
私が譲渡所得の申告依頼を受けた場合、心がけていることがあります。
それは「大蔵財務協会の譲渡所得の本の目次を読む」ということです。
この本では、譲渡所得の特例のうち、主要なものがほぼ全て網羅されていますので、目次に記載されている特例のタイトルをざっと見て、
「今回の譲渡所得では、特例の適用はないな!」
と、確認することができます。
ただ、最初のうちは、どの特例がどのような内容なのか分かりませんから、そこは頑張って、時間のあるうちに書籍を読み込んで、各特例の内容を理解しておく必要があります。
※大変ですけどね・・・。
以前、このような解説記事を書きました。
ないことを証明する(確認する)というのは、なかなか骨がおれる作業ですが、特例の適用漏れをすると、相当な損害額につながる可能性がありますので、時間をかけて確認しましょう。
※夜の秋葉原にて。安いPCパーツを求めて、さまよう人達がいますね・・・。
取得費の金額を確認しておく
取得費には「実額取得費」と「概算取得費(収入金額×5%)」がありますが、 よくある問題が次のようなものになるでしょう。
- 購入した金額が分からない(実額取得費が不明)
- 買換特例を適用しているか分からない
前者の場合で、実額取得費を推定で計算しようとしている場合は、次の記事のように、早めに資料集めしておく必要があります。
また、 過去に買換特例や交換特例を受けている場合(または受けているかもしれない場合)も、お客様に対して、過去の資料が残っているか確認し、残っていないようであれば税務署に対して照会する必要があるかもしれません。
取得費を間違ってしまうと、お客様に間違った納税予測額をお伝えしてしまうことになります。
例えば「今回の税金は500万円です」とお伝えしていたのに、実際は2,000万円だった場合、お客様はどのような気持ちになれるでしょう。
※逆のパターン(2,000万円と伝えたのに、500万円と少ない結果となったとき)は、税金が少なくなるから大丈夫だと思います。
そのため、 「取得費の計算に時間がかかりそう」「取得費の金額に自信が持てない」といった場合は、余裕を持つために、納税額を多めにお伝えするようにしています。
ベテランの不動産屋さんなんかは、不動産仲介の際に、
「だいたい、売却金額の2割ぐらいの税金がかかると思ってください。そのお金、とっといてくださいよ!」
なんて、お客様にアナウンスしています。
※相続した不動産などといった、長期譲渡の場合で、概算取得費で申告すると、確かに2割弱になりますから。
私もこの案内を見習って、迷う事案では、そのようにお伝えするようにしています。
早めに作業する
これが一番大事かもしれません。
他の税理士先生から、譲渡所得の相談をいただくことがあるのですが、大体が年明け、それも1月下旬といったタイミングが多いです。
ご相談頂くと言うことは、難しい案件(迷う案件)ということです。
その場合、「資料の収集→判断→書類作成」といった手順を踏むため、通常業務をしながらですと、1ヵ月以上(場合によってはそれ以上)、時間がかかる場合もあります。
そのため、売却(譲渡)が年内に済んでいるのであれば、年明けと言わず、年内のうちに、申告書作成を始めておく方が良いのではないでしょうか。
少子高齢化の影響で、廃業するお客様も多くなっています。
そのため、個人で所有している賃貸不動産を売る、自宅を売る、と言った方が増えているように感じます。
そのため、今まで以上に、税理士に対して譲渡所得の相談が寄せられる機会が多いと思います。
税理士の方も、譲渡所得の相談が寄せられたら、
「契約する前に、必ず事前に相談してくださいね」
と、強く念押ししておきましょう。
私自身、 お客様に何度も何度も念押しして、
「石橋先生って、心配性ですよね~」
と、言われたことが、何度もあります(^^ )
ですが、お客様によっては、
「本当に何度もご心配して頂いて、ありがとうございます」
とのお返事を頂くこともあります。
受け止め方はお客様によって様々ですが、心配が足りなかったことにより、お客様に損害を与えることだけは、避けなければいけません。
これからも一件一件、真剣に申告書を作成していきたいと思います。