市街地価格指数で譲渡所得の取得費を計算する際の注意点

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他の税理士先生から、直接、間接で、

「確定申告の譲渡所得だけ計算してもらえませんか?」

というご相談・ご依頼を頂く事があります。

※一般の方からの譲渡所得のみのご相談はお受けしておりません。

そのなかで多いご相談として、

「譲渡所得を計算するときの取得費が分からないから、市街地価格指数(しがいちかかくしすう)」を使いたいんだけど、どうすればいいの?」

というものが挙げられます。

個人が不動産を売却して、利益(売却益)が出ていた場合、売却益の約2割(保有していた期間が短い場合は約4割)の税金(所得税)がかかります。
※いわゆる「譲渡所得税」というやつです。

この場合、購入時の売買契約書(土地・建物の購入金額が分かる資料)、建築請負契約書(建物の建築金額が分かる資料)があれば問題ないのですが、数十年前の契約書が見つからない場合も多いものです。
この場合、どうすればいいのでしょうか?

色々な方法が考えられるのですが、どうしても分からない場合、最終手段?として、「市街地価格指数」を使う方法が挙げられます。

今回は、この方法について解説してみたいと思います。

※本記事は個人的意見・個人的見解を多分に含んでおります。実行する際は、必ず税理士等の税務専門家に相談してください。

※市街地価格指数の書籍を店頭販売している書店「政府刊行物センター」にて。

譲渡所得を計算するときの計算方法とは?

税理士にとってはいまさらなのですが、譲渡所得は次のように計算します。

「収入金額(売却代金)」-「取得費(購入金額)」-「譲渡費用」

ところで、取得費は、次の方法で計算することになっています。

  • 原則的な方法
    実際の取得費(=購入金額・建築金額)で計算する
  • 特例的な方法
    概算取得費(収入金額×5%)で計算する

実際の取得費が分からない場合は、特例的な方法である概算取得費で計算することになります。
ですが、概算取得費は「収入金額×5%」で計算しますから、収入金額(=売却代金)のほぼ丸々の金額(収入金額の約95%)が売却益となってしまいます。
そうすると、実際の取得費が多かったと推定される場合、この特例的な方法で計算しますと、余分な税金を払うことにもなりかねません。

そのため、実際の取得費を調べることが大切になります。

※譲渡所得の詳しい計算方法は別サイト「個人が不動産を売却した際は、どのような税金がかかりますか?」を参考にしてみてください。

まずは資料を探すこと

まずは、実際の取得費を一生懸命調べるようにしましょう。
直接的な証拠(売買契約書等)がなくても、間接的な証拠で計算する方法も認められると思います。
※個人的な見解ですが。

間接的な証拠としては、次のものが挙げられます。

  • 近隣で同時期に購入した人がいれば、その人が持っている売買契約書の写しをもらう
    同時期に売買している分譲住宅やマンションだと、参考になるでしょう
  • 土地建物の登記簿の乙欄を確認し、抵当権の設定金額で計算する
    少なくとも、その担保設定金額以上で購入しているはずです
  • ご本人の通帳記録やメモ
    購入時の手書きメモが残されていることも多いです
  • 購入当時の売り出し新聞広告
    数十年前の新聞で「良物件アリ!東南向キ!」なる新聞広告で計算したこともあります

他にも色々な方法が考えられますが、どうしても分からない場合は「市街地価格指数」を使う方法が考えられます。

たまに、他の税理士先生から、

「私のお客さん、購入時の売買契約書があるような雰囲気なんだど( ・∀・)、市街地価格指数で計算したいというお客さんがいるんですが、どうしたら良いでしょう?」

というご相談を頂きますが、これはマズイと思います。
※重加算税の対象になるかもしれません。

市街地価格指数を使うことができるのは、あくまで、

「資料が見つからなくて、どうしても取得費が分からなかった場合」

であると考えられるからです。

※霞ヶ関の官庁街にて。

根拠は国税不服審判所の裁決事例にある

「市街地価格指数」とは何でしょうか?
これは、

「平成30年8月現在の土地の金額:100 昭和50年8月の土地の金額:65.3」

という感じで、各地点の土地の価額(時価)を調査し、それを相対数値化したものです。
※例えば、平成30年8月に1億円で売れた土地があった場合、その土地の昭和50年8月現在に購入推定購入金額は6,530万円になる、といった具合です。

市街地価格指数は、

  • 商業地、住宅地、工業地
  • 六大都市、地方都市、各地域(ただし昭和60年以降)

という感じで区分されているので、対象の土地がどこに当てはまるか考え、計算することになります。

市街地価格指数の実際の数値は、日本不動産研究所が発行している冊子「市街地価格指数・全国木造建築費指数」に掲載されています。

「日本不動産研究所の案内ページ」で購入できます。また、全国の刊行物販売所でも購入できます。

ところで、「市街地価格指数」という言葉が有名になったのは、国税不服審判所の、ある裁決例があったからです。

国税不服審判所とは、納税者(=税金を払う人)と税務署とに意見の相違がある場合、いきなり裁判に行くわけではなく、

国税不服審判所

裁判所

という流れで、まず、国税不服審判所の判断を仰ぐことになります。
※ただし、近年の法律改正で、いきなり裁判所に行くこともできますが。

国税不服審判所は、税務署内部出身者や、税金に詳しい先生方が、納税者・税務署どちらの言い分が正しいか、判断してくれる場所です。
そのため、国税不服審判所の判断の結果(裁決事例といいます)は、裁判の結果(判例)と同じく、税理士の実務上の指針になっています。
※この裁決例は、絶対的なものではありません。なかには???という事例もありますので。

ところで、国税不服審判所の裁決例の中には、公開されているものと、非公開のものとがあります。

※公開されているものは「国税不服審判所のホームページ」で見ることができます。

ここにある裁決例(=公開されている裁決例)は、税務署側(=国側)から、

「この裁決例は参考になるから、みんな見るように!」

というメッセージが込められているものと、私は勝手に解釈しています。

※国側が見られたくない裁決例は、非公開(=ホームページに載せない)にするはずですから。(実際に非公開の裁決は無数にあります)

このなかに、有名な裁決事例として「平成12年11月16日裁決」なるものがあります。
長いので要点を説明すると、

  • 土地の購入金額が分からない場合は「市街地価格指数」を使って良い
  • 建物の購入金額(=建築金額)が分からなければ「建築統計年報」を使って良い

ということになります。

この裁決事例では、土地建物を一括で売却しています。
その土地建物の一括売却金額から、まず、建物の時価を引きます。
※建物の時価は、建築統計年報の建築金額から、減価償却費を控除した金額で計算しています。

そして、土地建物の一括売却金額から、先程の建物の時価を引くと、土地の時価が計算されます。

その土地の時価に、売却時点、購入時点の市街地価格指数の比率を乗じると、土地の取得費が分かる、という計算です。

なお、蛇足ですが、裁決例に出てくる「N調査会の○○統計年報」は、「建設物価調査会」の建築統計年報と思われます。
※暇なときに、自転車で建築物価調査会に行き、建築統計年報を閲覧して裁決例の資料と比較したところ(小数点は一部違いましたが)ほぼ同じ金額でした(^^ )

※某公園でお花見をしました。

何でもかんでも市街地価格指数で計算してはいけない?

どうしても取得費が分からない場合は、市街地価格指数以外にも、次の方法が考えられます。

  • 路線価
  • 公示地価(昭和45年以降)

大昔(昭和30年代~昭和50年代くらい)の路線価は、国会図書館に行くとみることが出来ます。
※製本された大昔の路線価図を見ることになります。痛んでいる本は、閲覧室で見ることになります。(痛んでいる本はコピーできないので不便ですが・・・)

また、公示地価とその前面路線価、対象地の路線価とを比準して計算する方法も考えられます。
※公示地価とは、役所が公表している、その地域を代表する土地の時価になります。ただし、公示地価制度が始まったのが昭和45年以降ですので、それ以前はこの方法で対応できませんが。

ところで、市街地価格指数の問題点として「取得費が高くなる傾向がある」という事が挙げられます。

なぜでしょうか?

答えは「市街地価格指数の調査方法」にあります。

「市街地価格指数・全国木造建築費指数」のページ内に「市街地価格指数の調査方法の概要」というページがありますが、ここに、

  • 調査地点は非公表
  • その地域の代表的な宅地を調査地点として選定

といった事が書かれています。
※電話で問い合わせたところ、やはり調査地点は教えられないとの答えでした(^^ )

「代表的な宅地」とあるので、商業地は、東京の中心地の価格の占める割合が大きいと思います。
そうすると、これらの土地は、昔からもともと高かったと思います。
※以前、東京の練馬区と、千代田区との路線価の上昇率を計算してみたことがあります。そうすると、一目瞭然(数十年前に比較して、練馬区某地点は3倍なのに、千代田区某地点は1.5倍等)なんですね。

そうなると、この方法で計算すると、実際の取得費よりも高くなる傾向があると思われますから、問題があるかもしれません。
路線価や公示地価と言った、各地域特性が加味されている方法で、検証することも必要でしょう。

※結構、多くの会計事務所で(大手であっても)、きちんと資料を精査しないで、市街地価格指数を無理矢理?使ってしまうケースも散見されます。

借地権の有無についても注意する

また、他の注意点としては「借地権」が挙げられます。
※別サイトの「借地権とは何ですか?」も参考にしてみてください。

土地の謄本を見ると、「昭和50年売買」として、Aさんが昭和50年に土地を購入したことが分かります。
ですが、建物の謄本を見ると「昭和35年建築:所有権保存」として、Aさんが昭和35年に、その土地の上に建物を建てていたことが分かります。

ここから推測出来るのは、

  • Aさんは、少なくとも昭和35年から、その土地を借りていた
    ・・・土地を借りないと建物を建てられないため
  • Aさんが昭和50年に購入したのは「底地(そこち)」である
    ・・・底地購入の場合、普通は底地権割合(1-借地権割合)で交渉することが多い

ということです。

ですから、このような場合は、(市街地価格指数や路線価で推測した土地購入金額に)底地権割合(「1-借地権割合」)を乗じた金額で計算することも検討すべきでしょう。

なので、税理士が計算する場合は、関係者に入念なヒアリングが必要です。
※「以前から土地を借りていましたか?」と聞くべきですね。

ちなみに、路線価図に借地権割合が記載されたのは昭和40年後半(昭和48年頃?=使用貸借通達と併せて?)で、それ以前の路線価図には「100」といった感じで、借地権割合のアルファベット記号が書かれていません。

それまでは、東京国税局の借地権割合は、以下のように、ざっくりと決まっていました。
(税務署に聞きに行くと、教えてくれたそうです)

  • 坪単価100万円以上・・・90%
  • 坪単価60万円以上・・・85%
  • 坪単価35万円以上・・・80%

なので、借地権が関係する場合は、大昔の土地の借地権割合・底地権割合をどうするかといった問題も出てきます。

また、上記のような場合は、借地権部分については概算取得費、底地は実際の取得費といった計算もできると思われますので、注意してください。

※新宿にて。

取得費が分からない場合は早めに計算すべき

今年も、何名かの税理士先生から、譲渡所得計算のご相談・ご依頼をお受けしました。

皆さん、1月に入ってからご相談を頂いたわけですが、資料がない場合の譲渡所得の計算は、時間がかかります。

  • 納税者へのヒアリング
    まず、何を聞いたら良いかが分からないことも多いです
  • 当時の資料調査
    国会図書館等の公的機関に行く時間も必要です
  • 確定申告書の青色決算書からの推測
    青色決算書で土地用途・建物用途を推測する時間も必要です
  • 買換特例、交換特例を使っていないか
    税務署に確認に行く場合、その時間も必要です
  • 納税者への説明資料の作成
    A方法だといくら、B方法だといくら、といった具合に、具体的な金額を書面で説明しないと、納税者は分からないと思います
  • 確認書の作成
    譲渡所得は単発のお仕事なので、説明を受けたという確認書をもらうべきだと思います

その他にも色々な作業がありますので、資料が見つからない場合は、とにかく時間がかかるんです。
※私自身、今年は、他の税理士先生からのご相談で、自分のお客様の確定申告スケジュールがタイトになってしまいました( ・∀・)

ですから、税理士側も、顧問先のお客様が不動産を売却したら、ヒアリングして、まず資料があるか確認し、ない場合は早めに動くことが大切です。

以前からの疑問ですが、なぜ、個人の確定申告期限は3月15日までなのでしょうか・・・。
外国ですと、もっと期限に余裕がある国もある(例えば6ヵ月間等)と聞いています。
消費税が3月31日なので、せめて、それに併せてくれれば税理士も少しは楽になるのですが・・・。

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