税理士が弁護士先生からよく質問されること

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個人で税理士業をしていますと、個人の弁護士先生から、よくご質問を頂きます。

弁護士先生からご質問の多い税務問題について、少し整理してみました。

※隅田公園にて。

相続に関する質問

普通の弁護士先生(業種特化されていらっしゃらない、一般的な弁護士先生)であれば、多かれ少なかれ家事事件を扱うことが多いと思います。
そのなかで、私が多いと感じたのが、次のようなものです。
※守秘義務の関係で、少し事実を変えています。

遺言書に関するもの

「相続で揉めないように、遺言書を作っておきましょう!」

ということで、弁護士先生・司法書士先生・行政書士先生が、バンバン?遺言書を作っていらっしゃいます。

ですが、税金について意識されていらっしゃる先生は、まだまだ少ないと、個人的には思っています。

遺言書関係のご相談ですと、

  • 遺言書どおりに相続すると相続税は、いくら位になるか?
  • この遺言書で他の課税問題が起きないか?

といった事項が多いと思います。

遺言書どおりに相続すると相続税は、いくら位になるか?

遺言で遺産を相続すると、当たり前ですが「相続税」がかかります。

例えば「小規模宅地等の特例(住んでいたり貸していたりする土地は相続税が安くなる制度)」の受けられる可能性があるのか、配偶者の税額軽減を受けた方が良いのか、二次相続(数次相続)での相続税負担を考えているか、といった問題があります。

このような場合は、正式な遺言書を作る前に、エクセル等を使って、いくつかシミュレーション表を作ってご説明するのが、一番良いでしょう。

この遺言書で他の課税問題が起きないか?

たまにですが、

「この遺言書だと、別の課税問題が起きる可能性がある」

という遺言書があります。

例えばですが、「私の土地を会社(法人)に遺贈する」という遺言の場合、

  • 被相続人(相続人)に対しての譲渡所得税
    ・・・被相続人が土地を時価で会社に売却したものとみなされるため、相続人が申告・納付義務を引き継ぐ
  • 株主に対しての相続税課税(みなし遺贈)
    ・・・何もしないで株式価値が上がったものとして、他の株主に「相続税課税」の可能性
  • 会社に対して受贈益課税
    ・・・会社はタダで土地をもらったため

特に、「被相続人(相続人)に対しての譲渡所得税」には注意が必要です。
というのも、何ももらっていない相続人に対しても、譲渡所得税を払う義務が出てくる可能性があるからです。
※実際にそのような事故?が起きてしまった後に、相談を受けたことがあります。注意しましょう。

この背景には、税法では、

  • 個人→法人
  • 法人→個人

といったように、個人から法人(または法人から個人)に資産が移動する場合は、別人格に移動するんだから、その資産を、いったん「時価」で売却したものとして精算しましょう、という考え方があるからなんです。

※現預金であれば、時価は「額面金額=時価」ですから、問題ありません。
ですが、土地建物といった不動産の場合、(数十年前に購入した不動産の場合は)含み益を抱えているはずですから、個人から法人に遺贈すると、時価で売却したものとみなして、譲渡所得税が発生してしまうんです。(法人から売却の対価を受け取っていなくても、です。)
弁護士先生・司法書士先生・行政書士先生が遺言書を作られる場合で、法人に遺贈する旨を記載する場合は、くれぐれもご注意ください。

そのため、税理士側でも、遺言書について勉強しておきましょう。
私がオススメしている本は、次のようなものです。

この書籍は、現在、中古本しか手に入りませんが、特定遺贈と包括遺贈の判断にも触れているので、オススメです。

こちらの本も、遺産分割、遺留分について、分かりやすくまとめられています。

税理士も、相続の法律について、きちんと勉強しておきましょう。

更正の請求

「更正の請求」という手続きがあります。

※更正の請求については「更正の請求をする際の注意点」をご覧ください。

弁護士先生のお仕事は、(言葉は悪いですが)他人との揉め事を解決することです。
その揉め事のなかで、

「相続税の申告書に、**という財産があるんだから、私に、もっと財産をくださいよ!」

といった、相続人間の争いがあります。

このなかで、その「**」という財産が、本当に存在するもの、本当に価値があるものであれば、それは争いの対象になるでしょう。
※相続開始前に引き出された被相続人の金銭等については、その財産の実在性?に問題がでてくるかもしれません。

ですが、相続税申告書において、存在しないものが計上されていたり、価値が全くないものが計上されているのであれば、それは相続税を払いすぎていることになるかもしれません。
その「さじ加減」について、ご質問を頂く事もあります。
※もし、その財産が存在しないなら(価値がないなら)、更正の請求で相続税を戻してもらえるか?といった可能性についてです。

成年後見制度

少子高齢化社会に突入しました。
成年後見に関するご相談も多いです。

家庭裁判所に成年後見の申し立てがされると、その申立書に記載されている人が成年後見人(=本人の代わりに財産を管理する人)が選任されます。

ですが、財産が一定規模以上ですと(東京家庭裁判所の基準によると、財産がおおむね****万円以上となっているようです)、ほぼ自動的に成年後見監督人に弁護士先生が選任されるようです。

成年後見監督人は、成年後見人が本人の財産を不正に使わないように、いわば「お目付役?」を勤めます。
※家庭裁判所から選ばれる弁護士先生は、家庭裁判所から「この先生なら大丈夫だ!」と、お墨付きをもらった、真面目な先生が選任されるとのことです。

ところで、成年後見人の制度では、お金がなくなってきて、仕方なく自宅を売却する、その他の賃貸不動産を売る、本人が亡くなった後の相続はどうするか?。そのような相談が寄せられます。

成年後見制度というのは、税金問題の塊?だと思います
これらの質問にきちんとお答えするには、税理士が成年後見制度の法律面を勉強しておく必要があります。

こちらの本は、弁護士先生、司法書士先生サイドの考え方を理解するうえで、役に立ちます。

※同じく隅田公園にて。

不動産に関する質問

不動産の税金に関するご質問では、次のようなものが挙げられます。

立退料

個人の方が、土地や借地を立ち退く際に「立退料」をもらうことがあります。

この立退料ですが、所得税がかかります。
ですが、その性質、契約書の書き方によって、

  • 譲渡所得
  • 事業所得
  • 一時所得

といったように、所得の種類が変わるので、注意が必要です。

その契約書作成前に、事前の相談を頂く事があります。

無償返還

「借地権(借地権)」というものがあります。
※正しくは「賃借権(ちんしゃくけん)」といいますが。

この借地権ですが、税務上は色々な税金がかかってきます。
※借地権の課税については「借地権とは何ですか?」を参考にしてみてください。

ところで、他人同士で、
「この土地、もう使わなくなりましたから、返します。今までありがとうございました!」
として、土地をタダで返してくれるという人が、たまにいらっしゃいます。

ケースとしては、借地の上に自宅建物を建て、数十年、土地を借りていた、一人暮らしのお婆さま。そんな方が挙げられます。

借地権はそれだけで価値があります。
ですから、普通であれば、

「この土地、使わなくなったので返します。ですが、私は借地権を持っているんですから、地主さん。買い取ってもらえませんか?買い取ってもらえないなら、他人に一緒に売却しましょう!」

ということを請求されます(-_-)

ですが、たまにですが、さきほどのようなお婆さまもいらっしゃいます。
この場合、土地を貸していた地主様は、(経済的価値がある)借地権をタダで返してもらったのですから、

「土地を借りている人(借地人)→土地を貸していた方(地主様)」

という風に、地主様は借地権をタダでもらったとして、

「財産の贈与があったものとして、地主様に贈与税がかかるのではないか?」

というご質問を頂く事もあります

※答えは、また別の記事でご説明しましょう・・・。

税務上の借地権を勉強する際、

「これ一冊勉強しておけば大丈夫だ!」

といった本はないと思います。

※そもそも、税務上の借地権といっても、「法人税」「所得税」「相続税」で範囲が違うんですよね。そのことが、更に理解を難しくしていますが・・・。

色々な知識が必要ですし、色々な人が色々な事を言っており、混乱しちゃいます。

信頼できる税理士先生のセミナーに多数参加するのが、理解への近道だと思います。

※同じく隅田公園にて。

法人(会社)に関する質問

会社については、だいたい顧問の税理士先生がついていらっしゃいますので、あまり悩むことはないかもしれません。

ですので、ご質問を頂く頻度は少ないのですが、次のようなご質問を頂く事があります。

株価算定のおおまかな方法

例えば、

「株主同士が争っているんだけど、この株価って、どうやって計算するの?」

というご質問を頂きます。この場合には、

  • 「民事上の株価」と「税務上の株価」の計算方法の違い
  • 「税務上の株価のおおまかな計算方法」

というような、アウトライン(概要)をご説明することにしています。

普通の税理士の場合、民事上の株価(DCF法等)は詳しくありませんので、概要くらいしかご説明できないと思います。
(私も専門外なので、概要のみご説明しています)
そして、税務上の株価について、ご説明しています。

両方の違いをご説明すると、たいていの弁護士先生は、

「お!ありがとう。概要が分かればいいんだよ。ありがとう!」

ということで、感謝の言葉をいただきます。

※細部まで分かる必要はないと思います。概要だけでも説明できることが大切です。

源泉所得税(非居住者への売却時)

これは不動産業者様から、結構、ご質問を頂きます。
※弁護士先生からも、たまにご相談を頂きます。

非居住者(=分かりやすく言えば外国人)が持っている日本の不動産を、日本人が購入すると、原則として、

「源泉所得税」

という税金がかかります。

例えば、非居住者が持っている、1億円の不動産を売却すると、

「1億円-10,210,000円(源泉所得税)=89,790,000円(受取額)」

として、非居住者は1億円ではなく、89,790,000円を受け取ることになります。
※購入業者は、売却代金から差し引いた源泉所得税10,210,000円を税務署に納めます。

この契約前の事前相談も、結構多いです。
※事後相談も、たまにありますが・・・。

以前、知り合いの不動産屋さんから、後日談で、

「いや~。石橋先生。売買代金の決済日の3日前に、非居住者が受け取る売却代金から、源泉所得税を天引きすることを知って、冷や汗が出たよ~。だって、宅建の試験で、そんなこと問われないんだもん~。」

私も、宅建の試験、受けてますので、その気持ちは分かります(^^)/
そんな大切な事、宅建試験で出題すべきですよね・・・。

なお、ここでの非居住者とは、不動産の登記簿謄本だけで判断するのは危険です。
不動産の謄本の所有者の住所欄ですが、そこに、

  • 日本人名
  • その日本人の日本の住所

が書いてあるからと言って、「居住者(=非居住者ではない)」と判断するのは危険です。
弁護士先生もご存じのとおり、住所を国外に移しても、登記簿の住所を変える方って、少ないと思います。
そうすると、長期に外国に住んでいる日本人が、日本の不動産を売却する場合、非居住者であることを、見逃してしまうかもしれません。

ですので、必ず、どこに、どれくらい、住んでいたのか、ヒアリングすべきだと思います。

源泉所得税の本は、次の書籍が参考になると思います。

この本は、網羅的に書いてあるので、(大蔵財務協会の本よりも)オススメです。

この本は、結構、マニアックな事例が書いてあるので、こちらもオススメです。

弁護士先生からご相談の多い事項について、まとめてみると、やはり相続関係の問題が多いよいです。

最近の弁護士先生向けの相続実務の本(遺言書・遺産分割関係の本)には、

「税金問題が発生するので**税に注意しましょう」

といった注意書きがされていることが多いと思います。
※これが10年~15年くらい前の本ですと、あまり注意書きが載っていません。

ですので、古い書籍だけ読んでいますと、税金で問題が起きてしまうかもしれません。

税理士は税制改正がありますので、税金の本は、頻繁に買い換えます。
ですが、弁護士先生も、新しい本を買われて、知識をアップデートする必要があるかもしれません。

私も、更なる知識のアップデートをはかり、弁護士先生・司法書士先生・行政書士先生のお役に立てるよう、頑張りたいと思います。

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