私は、ほぼひとりで税理士業務をしています。
そうです。
いわゆる「ひとり税理士」というやつです。
※週2日~3日ほど、半日だけ来てくださる事務員さんがいますので、四捨五入すると?ひとり税理士になると思います。
ひとり税理士の場合、お客様の数や、申告件数で大手の事務所に争っても勝てません。
・・・と言うか、勝つ必要(競う必要)がないと思っています。
仕事の質や考え方が違うので。
私が考えるに、ひとり税理士は以下の3点に気をつけて、日々過ごすべきだと思っています。
- 良い顧問先様を持つ
- 相談に答えて成長する
- 発信力を磨く
今回は、自戒を込めて、私が一人税理士をするにあたって気をつけていることを書いてみたいと思います。
※ひとりで走って行く長女。
良い顧問先様を持つべき
大手の税理士法人ですと、顧問先が数百件以上はあるんでしょうか。
それらを担当する勤務税理士や事務所職員は、一人当たり10件~30件?程度の顧問先を受け持つことになるでしょう。
私は、今まで都内の税理士法人と会計事務所に勤務していましたが、実に様々な顧問先様がいらっしゃいました。
- いつもニコニコして、こちらが失敗しても責めない社長様
- IT関係で過度の節税を要求してくるお客様
- 社員に対して過度の教育(パワハラ?)を行う会社様
これらの顧問先様は、もともと、その税理士法人なり会計事務所なりについていたお客様です。
自分で選んだお客様でありませんから、当然、いち社員である私の考えと合わないお客様もいらっしゃるわけです。
ですが、独立開業したら、こちらの方針に反するお客様をお断りすることができます。
そうすると、本当に良い顧問先様だけに、力を注力することができるのです。
特に、広告自由化もあいまって、大手税理士法人や、会計事務所の場合、
- 本年度の申告件数は○○〇○件で業界最多
- 相談件数は業界随一
というキャッチコピーをうたいますが、申告や相談を受け持つのはいち職員です。
当然、高いレベルでの業務は見込めないでしょう。
最近、ある弁護士先生と次のような話をしました。
「最近、大規模弁護士法人が増えていますけど、あれって内部の弁護士先生はどんな感じで仕事をしているんですか?」
すると、その弁護士先生が答えます。
「あれは、マニュアル化して担当する業務を絞ってるんですよ。若い弁護士先生が大半ですからね。なので、難しい業務をお願いするのはちょっと躊躇しますよね。以前、無料相談会(弁護士先生は一定の無料相談会等への参加が義務付けられています)に出て、大手弁護士法人勤務の若い先生とお話ししましたけど、???って感じでしたからね~。まあ、あくまで私の個人的感想ですけど」
と、おっしゃっていました。
税理士業界も、弁護士業界も同じなんでしょう。
ですから、ひとり税理士は、顧問先の数や申告件数で争わないことが大切です。
簡単な業務を数百件やっても、実力が上がるわけではないですし。
一軒一軒、良い顧問先様(自分と相性の合う顧問先様)だけに、二手三手先を見越したお手伝いをすることが、自分自身の成長にも繋がりますし、難しい業務もこなせるようになるのですから。
相談に真摯に答える
税理士にはさまざまな相談が寄せられます。
一番多いのは、現在の顧問先様からなんでしょうが、その他にも同業者(税理士)、隣接士業(弁護士・司法書士)、その他(不動産業者)からの相談も寄せられます。
私が特に重視しているのが、顧問先様以外からの相談です。
※長女と隅田川にて。
たとえば、弁護士先生から税務に関する難しい質問(相続税の更正の請求について相手方を争っている事案や、借地権に関する複雑な税務の取り扱いなど)が寄せられた場合、これらについて調べて正確にお答えすることができれば、
- 自分もその弁護士先生に対して質問しやすくなる
- お仕事を紹介してもらえる可能性が高まる
といったメリットがあります。
また同業の税理士先生からの質問も大切にしています。
私は難しいことを調べるのが好きなのですが、ちょっと度胸が足りないと、自分では分析しています(^^ )
先日も税務調査があって、理論的に私は完璧だと思っているのですが、税務調査は相手あってのことなので、担当官がどう反応するか分かりません。
そんな時、税務調査の修羅場をくぐっている仲のいい税理士には相談すると
「あーそれね。それだったら、こう整理すればいいんですよ~。ちょちょいのちょいですよ~。」
と励ましてもらえます(^^ )
相談に真摯に返すと、金銭面のみだけでなく、自分が「社会に役立っているな」と、使命感や満足感を持つことができます。
これが勤務税理士だったら、まあ、あまり調べず、義務的に返答して終わり、ということになるうでしょうね。
ですから、ひとり税理士は、相談や質問があったら、真摯に答えるべきでしょう。
発信力を磨くべき
ひとり税理士は発信することも大切です。
研修会講師や執筆依頼があり、自分が得意とするテーマだったら、積極的にお受けするべきでしょう。
※研修会開始前の準備風景。
大手税理士法人や会計事務所に勤務したままでも、研修会講師や執筆依頼を受けることができます。
※もちろん所長先生がOKというのが前提ですが。
ですが、その実績は事務所のものになるのでしょうか?
自分のものになるのでしょうか?
私のなかでは「ほとんどが事務所の実績になってしまう」という印象です。
例えば執筆なんかがそうですが、一生懸命に本を書いたとしても、著者の名前の前に「税理士法人〇〇」という名前が付けられてしまいます。
まあ、そりゃそうですよね。
その税理士法人に勤めているという信頼があるからこそ、執筆の話が来るわけですから。
また、研修会の講師でもそうです。
勤務税理士ですと、本当に自分の実力を見込んで、その講師の話が来たのか?という疑問も沸きます。
※勤務中の税理士先生のなかには、義務的にこなしている税理士先生も少なくありません。
裏を返せば、ひとり税理士は常に追い込まれているので(^^ )
- 分かりやすく話す工夫や努力をする
- 執筆時の構成や書き方を工夫する
といった努力をするので、勤務されている税理士先生よりも、分かりやすい可能性はあるでしょう。
※逆に、分かりにくい、資料作成に手を抜くといったことを続けると、次回以降、講師や執筆の依頼は来なくなってしまうでしょう。
ひとり税理士は、単なる広告宣伝に頼るのではなく、執筆や研修会講師といったように、正しい発信をすればするほど、お仕事の依頼にもつながります。
積極的に発信していきましょう。
ひとり税理士のメリット・デメリットを理解する
もちろん、ひとり税理士にも弱点はあります。
それらについては、どうすることもできません。
例えば、マンパワーが必要な仕事(大量の記帳代行、大規模法人の申告、組織再編業務など)については、大手税理士法人や会計事務所にはかないません。
※それらについては、以前も記事を書きました。
ただ、それ以上にメリットもあります。
- ひとりのペースで仕事ができる
- こだわった申告書を作成できる
- 人を管理する必要がない
- 執筆や研修会講師の依頼を受け放題
- 体調が悪い時は午前中に病院に行ける
- 平日午前中に床屋やマッサージに行ける
- 子供を事務所に連れてこられる(^^ )
※事務所で長男と一緒に。
組織を大規模化しようとすると、どうしても定型化した業務しかできなくなってきます。
そうすると、大量の勤務税理士や事務所職員を雇用しながら、定型化した業務だけを行っていくことになります。
ですから、難しい相談が来ても、なかなかすぐには対応できないでしょう。
私は以前、大企業の役員をされた方(60代男性。半導体技術系の役員)から、次のようなことを言われたことがあります。
「石橋さん。40代になると、スペシャリスト(技術者)になるか、ゼネラリスト(管理者)になるか、判断を迫られるときが来ますよ。ぼくは管理者の立場を選んだけど、どっちが正解だったか、いまだに分からないよ。そのときは後悔しないよう選択してね。」
私はひとり税理士なので、スペシャリスト(技術者)の道を選びました。
人を管理したり、採用したりするのが苦手ですから。
ただ、IT技術の発達で、以前よりも、ひとり税理士の活動はやりやすくなっています。
これから独立を検討している税理士先生は、ぜひ、後悔しない事務所造り(ひとり税理士で行くのか、組織化するのか)をして頂きたいと思っています。
楽しいこと。つらいこと。
勤務税理士時代は、それらを平日と休日とで分けることができましたが、独立すると、自分の生活と一体化しして頭から離れなくなります。
独立を検討しているは、先に独立している方の意見も良く聞いて、決断した方が良いのかもしれませんね。