「相続税を払えないときは延納すればいいんですよ」なんて、安易に言わないで

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相続税は、お金で一括払いが原則です。

ただし、お金で払えない場合、

  • 延納(5年~20年での分割払い)
  • 物納(モノ=土地や株式等の現物で払う)

といった選択肢があります。

以前、お手伝いした相続で、残念な(悲しい)延納を見かけたことがあります。
税理士で、よく、

「相続税を払えない場合は、延納すればいいんや~」

と、おっしゃる方がいます。

ですが、安易な延納は「危険」です。

延納について、考えてみました。

※以前、国税局担当者様にもらった延納・物納のパンフレット。

延納の手続きは?

延納(物納もそうですが)は、相続税をお金で払えない場合だけ、認めてもらえます。

お金で払えるか、払えないかは、どうやって判断するのでしょうか?
それは、次の書類を提出して、税務署が判断することになっています。

この「金銭納付を困難とする理由書」の用紙には、下記項目を記入することになっています。

  • 相続した預貯金
  • 相続した財産で換金が容易なもの
  • 相続人(納税者)が相続前から持っている預貯金等
  • 当面の生活費
  • 当面の事業費

その他にも色々と書くことがありますが、要はこういうことです。

「まず、相続した預貯金で相続税を払ってください。次に、相続人(納税者)が前から持っている預貯金でも払ってください。さらに、まだ払いきれない分から、定期収入(お給料等)から生活費を引いた手取り金額についてだけ、延納(分割払い)を認めてあげますよ」

なので、(理論的には)お給料から生活費を差し引いた手取金額を、毎年、税務署に払うということになりますので、精神的負担は結構なものです。

また、延納は相続税の分割払いなので、当然、利息(利子税)がつきます。

※延納の具体的な手続きは、下記のページも参考にしてみてください。

実際に延納すると、どうなるか?

以前、こんなことがありました。
※守秘義務の関係上、少し事実を変えて説明しています。

ある、お婆ちゃんがいらっしゃいました。

このお婆ちゃん、20数年前ほどに、土地と建物をいくつか相続しました。
そして、(そのとき相続税申告をした税理士先生がどのように説明したか分かりませんが)延納を選択されました。

そのときの(20数年前の)相続税申告書を見ると、次のような問題点がありました。

  • 相続税を高く払ってしまっていた
  • 延納期間が長すぎた

相続税を高く払ってしまっていた

「相続税は土地評価で下げることができますよ!」なんて、キャッチフレーズを聞いたことがありませんか?

実際、下がる「場合」があります。
※必ず下がる訳ではありません。

特に、私道の一番奥の狭い宅地や、デコボコのある形の悪い土地は、土地の金額が定価(路線価×面積)から、1割~4割くらい、下がる場合があります。

過去の相続税申告書を見ると、土地をきちんと計算しておらず、本来であれば約4,000万円でいいところを、約5,500万円ほどとして、計算してしまっていました。
※土地の金額を計算するのは難しい。ですが、こちらの記事のようにCADソフトを使ったり、財産評価通達をパズルのように組み合わせて計算すると、下げられる可能性があるんです。

つまり、このおばあちゃんは、約1,500万円ほど、多く相続税を払ってしまっていることになります。
その点で、まず悲しい気持ちになりました。

※小規模宅地の特例も間違っていて、更に悲しい気持ちになりましたが・・・。

延納期間が長すぎた

延納期間は、(相続財産のうちの不動産保有割合にもよりますが)最長20年です。
※20年間、毎年同じ時期に、年1回、相続税を払います。

この間、利息(当時は年4%~6%前後)もつきますので、大変です。

この相続では、既にバブルが崩壊していましたから、土地建物の金額は右肩下がりの時期になっていました。
そうすると、相続した賃貸不動産の家賃収入をあてにして延納したのに、充分な家賃が入ってこず、大変な事態になってしまいます。

私がこのおばあちゃんにお会いしたとき、

  • 大変質素な身なりをしていらっしゃる
  • 生活も大変質素(贅沢品は一切ありません)
  • 礼儀正しい方

というような方でした。

このおばあちゃん宛てに、税務署から毎年、

「相続税の分割払いの分として、利息も含めて、今年は**円払ってください」

という通知が届くんです。

そのおばあちゃんは、その後の子供達に遺産を残すために、生活を切り詰め、お金をため、何とか何とか何とか相続税を払いきった訳です。

もちろん、遺産を相続したら相続税を払う。
これは、国民の義務です。

ですが、ちょっと切なくありませんか?
一人暮らしのおばあちゃんが、頑張って頑張って、切り詰めて生活して、相続税を払う姿を想像すると・・・。

延納期間中、不動産の価値がどんどん下がっていっていて、さらに高い利息も払っています。
ですから、(延納期間中であっても)相続した賃貸不動産について、売却の提案をするなりして、財産の目減りを抑える必要があったかもしれません。

※もしかしたら、当時の税理士がおばちゃんにそのような提案をして、おばあちゃんが拒否したかもしれませんが・・・。

※日暮里駅にて。

ある国税局担当者様のお言葉

以前、ある物納案件で、国税局担当者様にお会いしたことがあります。

そのときの担当者様は、当然ですが、物納や延納にも精通されていらっしゃって、打ち合わせの時に、色々とためになるお話しを頂戴しました。

そのなかで、次のようなお言葉を頂きました。

「石橋先生。安易な延納は危険です。延納すると、担保を税務署に差し出す必要がありますよね。例えば、20年延納して、ある土地を担保に入れたとしましょう。そして、20年延納の半分(10年)が過ぎた頃、やっぱり払えないのでその土地を売却して払うこととしましょう。でも、税務署は延納の残額を全額払わないと、担保を解除しません。そうすると、その土地を売ることができない可能性があります。だから、延納は慎重にお願いしますね」

と、大変勉強になる、親切なご指導を頂きました。

また、今であれば「延納→物納」という切替も可能ですが、20数年前は、その選択はできなかったんです。
※当時は「物納→延納」はできましたが、「延納→物納」はできなかったんです。

ですから、安易に延納するのではなく、売却しての納税、物納といった選択肢をまず考える必要があります。
そして、どうしても延納となった場合は、どの資産を担保に入れるか、担保解除のタイミングはどうするか、といったように、相当慎重に検討する必要があります。

ブラックジャックという漫画

私は、あることを思い出しました。
それは、「ブラックジャック」というマンガです。

「ブラックジャック」の作者は、手塚治虫先生です。

この主人公はモグリの医者(医師免許を持っていない)ですが、外科手術の腕はピカイチで、法外な報酬(数千万円くらい?)で、手術の依頼を受けます。

そのなかで、次のようなエピソードがあったんです。
※私の記憶で書いているので、若干、間違っているかもしれませんが。

あるところに、大変ケチなおばあちゃんがいました。
そのおばあちゃんは、何かするたびに「はい、**円ちょうだい」と、お金をせびりますが、大変質素な生活をしていました。
そのおばあちゃんは、なぜケチなのか?

それは、おばあちゃんの息子が小さいときに、息子が大病し、ブラックジャックに息子の手術を依頼したからです。
その手術の報酬を、息子が大きくなるまで、少しずつ少しずつ、ブラックジャックに分割払いで支払っていたんですね。

そして、今度は、母(おばあちゃん)が病に倒れました。
息子は、難しい手術をブラックジャックに依頼しました。

ブラックジャックは、なぜ、おばあちゃんがケチだったのかを話します。
息子は、その時初めて、なぜおばちゃんがケチだったのか知るんです。
「おれのために(ブラックジャックへ法外な手術報酬を支払うために)、ケチだったのか!」と。

そして、息子も、母のためにブラックジャックに法外な手術報酬を支払う約束をしました。
もちろん分割払いで・・・。

何度も書いているように、遺産を相続したら、相続税を払わなければいけません。
ですが、税理士として、できることはあるはずです。

  • 相続税をできるだけ安くしてあげる(特に土地評価や、小規模宅地の特例)
  • 納税方法について、計画をたててあげる

とくに「納税方法」は、税理士は軽視しがちです。

相続税の案件は、単発でその場限りですから、大手税理士法人ですと、相続税の申告書だけ作って、

「とりあえず延納しときますか」

とアドバイスして終わり、というところもあるかもしれません。

ですが、それでいいんでしょうか?

このおばあちゃんのような事例は、全国でたくさん、たくさんあると思います。
※実際、税理士仲間でも、よく聞きますし。

税金を払うためだけに生きている。
そんな状態にならないよう、税理士は最新の注意を払ってアドバイスを差し上げる必要があります。

延納だけでも色々と考えさせられます。
相続税は奥が深いですね・・・。

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