最近、久しぶりにお声がけいただいた編集者さん(超ベテラン)とランチをご一緒しました。
「いい原稿にするには何に気をつけるべきか?」と話し込む中で、私自身の失敗や学びとピッタリ重なったポイントがいくつも出てきたので、整理しておきます。

※編集者の方から頂いたお菓子
1) まず「順番」。各論に走らない
人は語りたいことから書きがちです。私も何度も赤を入れられました。
特に専門家はディープな論点(各論)に早く行きたくなりますが、読み手が置いてけぼりになります。
ですので、次のような方法をとると良いのではないでしょうか。
- ターゲットを決める:誰に向けて書く?(同業者・初学者・実務担当者・経営者)
- 新しい視点を最低1つは入れる:この原稿で読者に何を持ち帰ってもらう?
- 三段構成に固定:
- 全体像(結論/要旨)を述べる
- 用語の定義(用語・制度の概要)を各所に入れる
- 各論(具体論点・事例・落とし穴)を具体的に書く
例:相続税の「小規模宅地等の特例」
①特例の効果と結論 → ②要件や用語の整理 → ③このケースは注意…の順。
先に③を書きたくても我慢です。順番を崩すと伝わりません。
2) AIは“推敲アシスタント”。中身は自分で書く
最近はChatGPTで推敲する編集者さんも増えています(私もたまに使います)。
ただし、骨格(主張・ロジック・一次情報)は専門家の責任です。
AIに任せるのは以下の軽作業までになります。
- タイトル候補出し・言い換え案
- 文末のトーン統一・冗長削り
- 目次化・見出し階層の整序
逆にダメなのは、条文解釈の結論、最新改正点の断定、個別相談への適用判断でしょうか。
AIは結構いい加減ですからね。
最終判断は必ず一次情報(法令・通達・判例・裁決例・公式資料)を紹介して、記事内容が本当に正しいかを客観的に示す必要があります。

※茅場町の公園にて。
3) 得意領域で勝負する。断る勇気も武器
私の場合、相続・譲渡所得は筆が乗ります。一方で、法人税の細かい税額控除は、正直モチベが上がらない。
逆の方もいるでしょう。中小企業の法人税全般については得意で、相続は興味がわかないといったようにです。
なお、調べる時間が無限に伸びるテーマは生産性を食います。
依頼時点で「誰向け・何文字・締切・一次情報の難易度」を見て、自分に合わないテーマについては丁寧にお断りする勇気も必要でしょう。結果的に読者のためでもあります。
4) 体験談は“厚め・短め”
実務での経験を語ると、読者の納得感を生みます。ただし長すぎると自慢話化してしまいます。
私は以下の型で書いています:
- 事実(いつ・どこで・誰区分の話かは概況のみ。特定可能情報は削る)
- 気づき(何が気になったか)
- 示唆(次に活かすチェックポイントを箇条書きで)
守秘義務は最優先。
以前、司法書士の専門誌で読んだ記憶があるのですが、実務経験が語られていて、それが結構、個人を特定できるかもしれないぐらいな、具体的なこと書かれていたんですよね。
司法書士の専門士は、司法書士先生しか読まないですから、情報が拡散すると言ったことは考えにくいんでしょうが、守秘義務には気をつけていただきたいと思います。
日付・金額・固有名詞・珍しい事情は特定されやすいので加工する必要があります。。
なお、業界紙では同意書の提出を求められたこともあります。
5) 法改正リスクを“明記するクセ”をつける
税務などは特に改正のサイクルが速いです。
- 記事に「本記事は何月何日現在」といったことを明記した方が良い場合もあります。
- グレー論点は複数ソースを対置して書く(通達/質疑応答事例/裁決例 など)
読者の誤用を防ぎ、将来の自分も守れます。
6) 読者が迷わない“見出し&余白”
専門家ほど長文を一段落で書きがち。私も編集で直され続けました。
- 見出しは短く結論型(例:各論は後。まず前提)
- 一段落は3〜5行を目安に改行
- 箇条書きは3点まで(4点以上は層を分ける)
- 図表は“分かりやすくシンプルに”を最優先
7) 原稿料の現実と、それでも書く理由
同業の方から「原稿料もらえて、いいですね~」と言われますが、時給換算は合いません(笑)。
それでも続ける理由はシンプルで——
- 知識がアップデートされる(人に説明できて初めて分かったと言える)
- 同業へ貢献できる(巡り巡って自分に返ってくる)
- 専門家同士の接点が増える(次の仕事に繋がる)
一つの原稿は大変。でも地道な積み重ねが、結構、後で効いてきます。
最後になりますが、
ターゲット/ゴール/三段構成——この3つを書き出してからキーボードを叩く。
これだけで、編集さんの“赤”はだいぶ減ります。
一つの原稿を仕上げるのは大変ですが、これからも地道に続けていきたいと思います。