優しい税理士が必要とされる理由

今の時代、税理士の役割が変化してきてると思います。 一昔前は税理士の仕事といえば中小企業の顧問業務が主なものでしたが、近年は法人数の減少によりその顧問業務が減ってきています。

代わりに、一定以上の資産をお持ちの方(特に不動産)についての単発の相談や顧問業務といった仕事が増えてきてると思います。

そのような税理士の役割が変化している中で、税理士に求められるのは「優しさ」になると思います。 ただ一口に優しさと言っても、曖昧であって具体的ではありません。

今回は「優しい税理士」について、私なりに考えてみました。

※もうすぐ4歳の長男とゲームセンターに言ってきました。

「優しい」の定義とは?

私が考える優しい税理士の「優しい」とは、次のようなものです。

先回りして気遣いができる

税理士は様々な場所に行く機会があります。

例えば不動産オーナー様が、「ちょっと心配なので、物件を見に行く時に一緒に見に行ってもらえませんか」 という依頼を受けることもあります。

こんな時、居住用物件であれば気をつける必要があります。
それは土足で入ってはいけないということです。

以前お客様といくつかの物件を一緒に見に行った時のことです。その時は不動産業者が同行していなかったので私とお客様の2人だけで行きましたが、その時に私は使い捨ての紙スリッパを2つ持っていきました。 お客様はご自分の物件のことでご心配で頭がいっぱいですから、そのような細かな配慮まで頭が回らないかもしれない——と、先回りして考える必要があるでしょう。

また、マスクを余分に持参することも大切です。 コロナが終わり、もうマスクをしなくても良い世の中になっていますが、まだまだご高齢のお客様の中にはコロナだけでなく風邪や色々なウイルスをご心配される方もいらっしゃいます。
例えばご高齢のお客様と不動産業者に同行する、金融機関に同行するといった時、お客様がマスクをしているのに他の関係者がマスクをしないというのは、やはりご不安を与えます。 その時税理士は自分の分だけではなく関係者の分も余分に持っていれば、その場でお渡しして着用していただくことができ、お客様の安心につながります。

一緒に行ってくれと言われて単に一緒に行くだけでは子供のお使いになってしまいますから、その場でどのようなことが起きるのかを常に先回りして考えておく必要があります。

共感してお話を聞く

これは私は今でも、一生かけて勉強することだと思いますが、お客様の話を共感して聞くというのは本当に難しい。

特に会計事務所に勤めている時代は、所詮人事(ひとごと)ですから、聞いているようで実は聞いていないということになっていたと思います。 ただ私も結婚して子供ができ、お客様がご自身のお子さんについて悩んでいる、資産承継について悩んでいるという姿を見て、それを自分自身に当てはめ、ご一緒に考えることができるようになってきました。

これはなかなか会社員では本当に難しいんですよね。 ただ、ご面談する前に「自分の時間はお客様の時間」という気持ちで臨む必要があります。

結論を急がない

不動産業者のなかには、とにかく取引をまとめたいということで、結論のみをお話しされる方がいます。 ただこれではお客様の気持ちを掴めないんですよね。

以前、お客様(高齢の女性)がある役所である税金の課税をされたことがあります。その時の担当官が70歳近い男性で、嘱託だったと思いますが、そのお客様に対して、

「何年生まれですか? え!〇〇年生まれですか! じゃあ私と同い年ですね。そうか、これも何かのご縁なので失礼ですけど握手させて頂いてよろしいですか!」

と、いきなり握手を求めてきたこともあります。 お客様は最初から少しご立腹だったのですが、この握手によって雰囲気がガラリと変わり、以後の説明がスムーズになり、役所は無事に課税の説明をすることができました。 ここで職員の方が最初から課税の話をしていたら、話はまとまらないでしょう。 ですからお客様のお話を、雑談を含めてまず聞いて、それから結論に導く必要があります。

分かりやすく報告する

「報告書類はA4の1枚でまとめること」とよく言われます。 他のお客様から「銀行からこんな書類もらったんだけど〜」ということで金融機関の書類を見ることがありますが、パワーポイントなどで図表がたくさん使われていて、とにかく長い。

私を含めた専門家が見るのであれば理解できますが、お客様は専門家ではありません。 できるだけ報告資料を短くする必要があります。 お客様にできるだけ分かりやすく説明するというのも、優しさの一つだと思います。

ですから、できるだけ短く箇条書きで、図表も最低限にしてコンパクトにまとめる必要があります。

利害関係者と調整することができる

「銀行」というキーワードに敏感なお客様もいらっしゃいます。 金融機関に関しては皆さん様々な思いをお持ちですが、いずれもビジネスであり法律にのっとってお仕事をしているわけですから、妥当な落としどころで決着する必要があります。

また不動産業者もそうです。 売買価格だけでなく、他の取引条件(引き渡し時期、免責条項等)についても、ある程度のところで妥協する必要があります。

お客様のお考えがまとまらない時、または感情が揺れ動いている時に、その場で交通整理をしてお客様と相手先との橋渡しをする、というのも税理士の役目、ひいては優しさなのではないかと思います。

実際、金融機関の担当者から「先ほどはお客様との面談時に、お話をうまく整理していただき本当にありがとうございました。」とのメールを頂いたこともあります。

もちろん税理士は全面的にお客様の味方なのですが、相手との交渉は無理を言っても通らない部分がありますから、理屈と実際の落としどころの話になるように導く。

また、重要な事項が漏れているのであれば、その点についてもその場で補足してあげる必要があるでしょう。 いわば戦国時代で言う軍師的な役割が求められるでしょう。

※長女がお菓子を買ってきてくれました。

まとめ——「優しすぎる」はダメ、線を引くのも優しさ

私が考える優しい税理士の定義は上記のようなものになります。 まとめると、ニコニコ笑っているだけではダメ、怒っていてもダメ、何も知らない人ではダメ、気遣いができない人はダメ、ということになるでしょう。

ただ、「優しすぎる」税理士もダメです。 優しすぎると、お客様によっては、もっとずけずけ言って良いだろうということで、言葉がどんどんきつくなってくる方もいらっしゃいます。そのようなお客様であれば、税理士の方が潰れてしまうでしょう。そこは失礼のない言い方で一線を引いていただくよう、お客様にお伝えする必要があります。

また、優しすぎると、脱税依頼があった時に応じてしまうことにもなりかねません。 自分なりの基準を持っていることが大切です。

十数年前、ある先輩の税理士先生から「優しさについて、自分なりの基準を持ってなきゃダメだよ。」と言われたことがありますが、この基準は、必死に努力をして経験によって身についていくものだと感じています。

これからは優しい税理士の需要がどんどん増えると思います。 税理士の方も「本当の優しさ」を身につけるため、日々努力が必要になるでしょう。

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