不動産所得・譲渡所得の税務調査で気をつけたいこと

Pocket

「できるだけ税務調査が来ないようにするためにはどうすればいいのか?」

そう考えて日々仕事をしていますが、それでも来てしまう場合があります。

不動産関係で税務調査が来た場合、どのような事項を指摘されるのでしょうか。

今回は、不動産に関する税務調査、とりわけ個人(不動産所得・譲渡所得)について、指摘されやすい事項と、その対応方法について考えてみました。

※税務調査後に、税務署より届いた是認通知書(おとがめが1つも無かった証明書)。この通知が届くと、税理士としては「やった!」と気持ちになります。

1.不動産所得に関する税務調査

(1)収入の指摘事項

以前、税務署長を務められた、ある国税OB の先生に、このような話を聞きました。

「石橋さん。個人の経費って、経費になるかならないか、はっきり言ってグレーな部分が多いでしょう。でも、収入・売上については、その人に入ってくるものだから、間違いなく、絶対に把握できますよね。だから収入漏れには気をつけてくださいね」

確かに、経費については、グレーな部分(解釈によっては認められる部分)があり、 人によって判断に幅があります。

しかし、収入については、間違えようがありません。
ですから収入漏れや売上漏れについては、税理士は特に気をつけるべきでしょう。

不動産所得の収入で漏れやすい場合として、以下が挙げられます。

  • ご自分で多くの収入を計算している場合
  • 敷金・保証金の償却漏れ

地主様・不動産オーナー様については、家賃の入金確認を不動産会社に任せず、ご自身で行なっていらっしゃる方も多くいらっしゃいます。
その中で注意したいのが、 規模が大きい(部屋数が多い)方についてです。

例えば、家賃10万円のワンルームがあるとしましょう。

このワンルームの合計数が40部屋あると、年間家賃収入が約4800万になります。

そうすると、毎月、家賃として、月末頃に通帳に40行の入金が記帳されることになります。

これぐらいの数(年間480件の記帳)になると、部屋の入れ替わりも頻繁に起こりますから、1件(1行)くらい、漏れてしまうこともあるでしょう。
※信用金庫系の金融機関の場合、通帳の普通預金のページが5ページぐらいしかないことも多く(メガバンクは概ね10ページくらい)、そうすると、通帳の冊数が通常の倍となりますから、管理が煩雑となる原因の一つとなります。

また、事業用物件(店舗・事務所)については、「3年ごとに家賃1ヵ月分を償却する」のような変則的な償却方法を定めているところもあります。

以前、調査の時に、私が、

「今回はお客様がお忙しいので、なるべく手短に済ませてください。今日はどんなところが気になられて、調査にお越しになられましたか?」

とお聞きすると、調査官の方が、

「実は、青色申告決算書に書かれている、このテナントさんの保証金がありますよね。この金額って、結構な金額なんですけど、ここの部分の償却って、きちんと収入に計上されていらっしゃいますか?」

と質問されてきました。

所得税の場合、「権利確定主義」という考え方があります。
これは「 もらう権利が確定した時に、収入に計上しましょう」という考え方です。

この考え方に基づくと、保証金や敷金のうち、 賃貸人に返却しない部分(償却部分)については、返さなくてよくなった時(もらうことが確定的になった時)に、収入に計上するわけです。

その時期とはいつか?

事業系の賃貸借契約書では「退去時に敷金・保証金を〇ヵ月分償却する」との表現になっているはずです。

つまり、賃貸借契約が開始した時に、償却部分はもらうことが確定しているので、契約開始日の年に収入に計上することになります。

この時は、私は、お客様からをきちんと賃貸借契約書のコピーを頂き、内容を確認して収入計上していたので、特に問題となる事項がなく淡々と調査が終わりました。

以上のように、収入漏れというのは、ほぼ確実に修正申告に繋がることから、漏れがないか毎年の確定申告できちんと確認すべきでしょう。

※国会図書館からの帰り道にて。

(2)経費の指摘事項

不動産賃貸業は他の事業と違い、経費の支出が少ないという特徴があります。

よくあるのですが、不動産賃貸業なのに、飲食店の領収書がやたら多いという場合も稀にあります。
不動産賃貸業で、そんなに頻繁に打ち合わせなり、接待なりがあるはずがありません。
※ものすごく大きな規模で不動産賃貸業されてる方は別ですが・・。

私のお客様は、あまりこのようなことはないのですが、他の税理士先生に聞くと、物凄い経費を突っ込んできて、不動産所得が、赤字か、ほぼとんとんとなり、給与所得と相殺している、なんていう事例もあるそうです。
※そういうお仕事はあまりやりたくないですね(^^ )

このようなお客さんは例外として、経費の中で問題となりやすい部分は、以下のようなものと考えられます。

①不動産管理会社に対する管理費

地主様・不動産オーナー様は、所得税や相続税の節税のために、 ご家族で不動産管理会社を設立しされている場合があります。

具体的には、個人が所有する不動産の管理を、その不動産管理会社に任せ、個人が法人に管理料(委託料)を払って経費化することによって、個人側での所得税節税・相続税節税が図れるというものです。
※法人に一括転貸する方式(一括転貸方式)、法人が建物を所有する方式(不動産所有方式)をとられているかたもいらしゃいます。

最近は、 法人側で社会保険加入が強制されてますし、給与所得控除の上限を設けられていることから、以前のような高い節税効果は得られませんが、それでも一定の効果がありますから、そのような仕組みで不動産管理を行っている方々も多いものです。

法人へ支払う管理料は、自分たちで自由に決められますから、「管理料が高い」や「管理の実態がない」ということで、経費として認められないこともままあります。

そのようなことがないように、不動産管理会社はきちんと管理の仕事をする、契約書を作る、 適正な管理料の相場の範囲内にする(一般的に、管理委託方式の場合は、家賃収入の6%~10%程度と言われています)といった対策が必要です。

実際、調査になると、調査官の方が、開口一番、

「不動産管理会社との管理契約書を見せてください。ほ~。管理料が〇〇%となっていますが、これって相場よりちょっと高いんですかね?」

なんてと言われることがありますので、上記のような点に注意が必要です。

②修繕費に関する指摘事項

私はあまり指摘されたことはないのですが、修繕費が高額(例えば数千万円)になる場合は、本当にその修繕費が経費となるのか(資本的支出部分はないのか)について、注意が必要でしょう。

賃貸マンション・賃貸アパートも、新築して10年も経てば、大規模修繕の話が持ち上がってくるはずです。

最も多いのは、雨漏りを防ぐ防水工事でしょう。

屋上や外壁の防水工事は、 最近は(施工時に建物にかける)足場の値段も上がってしまい、どんどん価格が上昇しています。

これらについては判例や裁決例もあり、通常の施工方法であれば、修繕費として計上して良いと考えられます。
ですから、多額の修繕費は出てきた場合は、工事内容を分析し(場合によっては施工会社さんに通常の施工方法かを確認して) 積極的に修繕費に計上するようにしましょう。

また、場合によっては、青色申告決算書の余白部分(本年中の特殊事情)の欄に、修繕費の施工方法や施工に至る原因(水害・天災等)を書くと、税務調査の可能性が低くなるかもしれません。

※大手町からの帰り道にて。

2.譲渡所得に関する税務調査

(1)収入の指摘事項

譲渡所得の収入金額は、売買契約書にきちんと書かれていますから、間違いようがありません。

「間違えるとしたら、固定資産税清算金の計上漏れぐらいじゃないの?」

と考える方もいるでしょう。

私もその通りだと思うのですが、注意したいのはもっと多額の計上漏れ、具体的には同族法人が絡む取引の場合です。

「社長個人の土地の上に、同族法人が建物が建てている」

よくある事例ですよね。

この土地建物を第三者に一括で売却する場合、以下の点に注意が必要です。

  • 地代はいくらだったのか?(相当の地代方式だったのか?)
  • 相当の地代の場合は固定型か改訂型か?
  • 無償返還届出書が出ているのか?

これらのいずれかに該当する場合、法人は一定の借地権相当部分の収入を計上しなければなりません。
※つまり、土地売却収入の一部を、法人に計上する必要があります。

個人について税務調査があった場合、個人の収入が多く計上されていても(法人に計上すべき収入が計上されていなかったとしても)、調査官(資産税部門)は、あくまで個人の調査をしているので、問題なしとすることが多いと感じます。

しかしながら、翌年、法人側に調査があり、計上不足を指摘されることがあるかもしれません。

ですから、個人と同族法人が絡む売買については、特に慎重に判断する必要があるでしょう。

(2)その他

特例関係(特に居住用財産の譲渡関係)を使う場合には、適用要件をきちんと満たしているのか確認しましょう。

以前、このような記事を書きました。 

居住用財産の譲渡の特例については、居住実態の確認に細心の注意が必要です。

お客様が顧問先であれば問題ないのですが、やはり単発での依頼は、その方の背景が分かりませんから、特に慎重になるべきでしょう。

また、 以前の記事にも書いたのですが、取得費(購入価額)を推定で計算した場合、私は詳細な「説明書」をつけて申告しています。

何件も何件も、この方法で申告しますが、今のところ税務調査で指摘されたことはありません。
※ただし、本当に購入当時の資料がなかったのか、推定した取得費が妥当なのか、徹底的に調査しますが。

ですから、このような資料をつけて税務調査に来てもらわない(または調査があっても指摘されにくいようにする)という工夫も必要になるでしょう。

私が開業して約11年が経過しますが、その間、税務調査は数件しかありませんでした。
※お客様が少ないから、調査件数が少ないんだろうというツッコミはなしでお願いします(^^ )

調査に来てもらわないようにするためには、工夫が必要です。
具体的には、目立つ事項(多額の修繕費、譲渡所得の収入配分など)があった場合には、確定申告書の余白に書く、事情説明書を添付するなどして、最初から説明してしまうのです。

そのような申告書を受け取った税務署員は、どのように考えるでしょう?
書類は第一印象が大切ですから、もし私だったら、

「ああ、この税理士先生はここまで調べて、検討して、このような答え出されているんだな。他にも細かな部分が気になるけど、ここまで調べているのであれば、当然そこも検討してるでしょう。じゃあ大丈夫かな。」

なんて、お気持ちになってくれたらいいなぁ、と思われるよう、頑張って書類を作っております。

税理士の悩みの一つに「税務調査があっても、お客様に報酬をもらいにくい」というものが挙げられます。
※処理が正しくて当然と思われてるでしょうからね。

 そのため、税務調査に何度も来られると「働く〇〇はもらいが少ない」のことわざどおり、貧乏暇なしとなってしまいます(^^ )。

ですから、 日々の仕事を丁寧に丁寧に行うことが、 結局は一番、 採算がいいんでしょうね。
私も、お客様を申告書を、一軒一軒、丁寧に作っていきたいと思います。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする