相続税申告書を自分で作成できるのか?

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日本の税金は「申告納税方式(しんこくのうぜいほうしき)」という仕組みとなっています。これは、

「自分で税金を計算して、自分で計算結果(申告書)を税務署に提出してくださいね。そして、税金を納めてくださいね」

という仕組みです。

ですから、原則は「自分で計算する」ということになります。
※これは、相続税だけでなく所得税(個人事業の税金)や、法人税(会社の税金)も同じです。

ところで、以前に何件か、

「自分で相続税申告書を作成しようと思い、税務署に行ったりして途中まで作成しましたが、期限ギリギリで断念しました。これから大急ぎで作成してもらえませんか?」

という相談・依頼をお受けしたことがあります。

今回は「相続税申告書は自分で作成できるのか?」をテーマに考えてみたいと思います。

※こちらの記事も参考にしてください。

※かなり前に税務署から届いた封筒(相続税申告書の用紙が同封されています)

自分で作成できる遺産規模・遺産内容とは?

「相続税の計算は難しい」と言われますが、私は、ある程度までであれば、自分でできると思います。

その「ある程度」ですが、次のようなものになると思います。
※あくまで、個人的な意見です。判断はご自身でお願いします。

  • 遺産総額が8千万円くらいまでである
  • 土地の形が四角に近い
  • 相続人が2人以上いる
  • 小規模宅地の特例の判定が簡単
  • 不動産の売却予定がない

順番に確認していきましょう。

遺産規模が8千万円以下

「相続税×早見表」で検索すると、色々なサイトで「相続税の早見表」を確認することができます。

※「早見表」とは、遺産規模がこれくらいで、相続人が何人いると、だいたいこれくらいの税金です、という一覧表です。なぜか本家本元の国税庁のサイトには、早見表が置いてありません。これは親切ではありませんね~。

この早見表を見れば分かるんですが、相続税は、「遺産規模」と「相続人の数」とによって大幅に変動します。

遺産規模が8千万円の場合、

  • 相続人1人・・約600万円~700万円
  • 相続人3人(子供だけ)・・・約300万円

というように変動します。

相続税は所得税(個人の税金)と同じく「超過累進税率」です。
つまり、遺産規模が大きくなればなるほど、税率帯が上がるのです。

※相続税の税率は「10%~55%」です。

遺産規模が8千万円くらいまでであれば、間違って計算した場合、最大で数百万円台前半くらいの間違いになると思います。
※もちろん、間違って少なく計算した場合は、税務署の人から怒られてしまう(=修正申告が必要、追加の税金支払いが必要)可能性があるので、そこは注意してください。

逆に、間違って多く払ってしまう場合もあるでしょう。

その両方のデメリットを考えると、自分で計算できる上限が、遺産規模8千万円くらいまでなのかな、と個人的は思っています。

土地の形が四角に近い

土地は、原則として「路線価×面積(地積)」で計算します。

その結果が、相続税を計算する上での評価額(=価値)になるわけです。

ですが、この「路線価×面積」は、あくまで「定価」です。
※要は、この土地が凄くキレイな土地である場合の、最大限の価額ということです。

土地によっては、真四角でないもの(極端に言えば三角に近い形のもの)もあります。
これは、計算方法によっては、「約1割引き~約4割引き」になることもあるんです。

この計算は、相続税に詳しい税理士でないとできません。
そうすると、税理士に100万円払ってお願いして、相続税が500万円安くなれば、元を取ったといえますから、その場合には税理士に依頼した方が良いでしょう。

ですが、土地が真四角に近い形の場合は、あまり減額要素がないと思われますので、税務署に聞きに行って、自分で申告書を書いてみてもいいと思います。

※本当は、もっと他の減額要素もありますが。(地区容積率、余剰容積率、セットバック、都市計画道路、埋蔵物等々・・・)心配なら税理士に依頼すべきなんですよね・・・・。

相続人が2人以上いる

相続税の計算は「相続人が多くなればなるほど、安くなる」という仕組みになっています。

ということで、相続人が多ければ、(例え、税金を間違って多く計算していても)被害は少ないと考えられます。
ですから、相続人が多い場合は、自分で書いてみてもいいのではないでしょうか。

※もちろん、間違って少なく計算すると税務署の人に怒られてしまいます。逆に、間違って多く払うとソンをしてしまいます。慎重に計算してください。

小規模宅地の特例の判定が簡単

「小規模宅地の特例」という制度があります。

これは「住んでいたり、貸していたりする土地の値段を、最大5割~8割引きにしてあげましょう」という制度です。

この制度の要件は難しいのですが、一番よくあって、かつ、簡単なパターンとして、

「亡くなった被相続人と一緒に住んでいた人が適用する」

というケースがあります。

※亡くなった夫の自宅を妻が相続するイメージです。

これは「使えるか?使えないか?」の判断が簡単ですから、迷うことはありません。
ですから、このようなケースでは、ご自分で申告書を書いてみても良いのではないでしょうか?

不動産の売却予定がない

相続した不動産(土地・建物)を売却すると、「不動産売却益」に所得税と住民税がかかります。

※これを「譲渡所得税」と呼んだりします。

このときに、「相続税の取得費加算」という制度を使うことができるかもしれません。

※これは「支払った相続税の一部を、経費にしてあげますよ」という制度です。

亡くなった父が、数十年前に購入した自宅を売却する。
その場合(細かい説明は省きますが)売却金額の約2割の税金がかかる可能性があります。
そのとき、この制度(相続税の取得費加算)を使うと、若干ですが、売却時の税金が安くなる可能性があります。
※ですが、原則として、相続開始から3年10ヶ月以内に売却することが要件です。

また、住んでいた不動産を売ると、「居住用財産の特例」を使うことができるかもしれません。
※いわゆる「3,000万円控除」や「軽減税率(軽課税率)」というやつです。

相続税申告書を自分で作る場合は、税理士から売却についてアドバイスを受けることができません。
ですから、売却の予定がある人は、最初から税理士に相談した方がよいかもしれません。

税務署に相談に行くと、どうなるか?

※税務署で配られている手引き「相続税の申告のしかた」

相続税申告書を自力で書く場合は、税務署に相談に行くと良いでしょう。

ただし、次のような注意点があります。

  • 役所なので時間・時期が限られる
    ・・・税務署が開いている時間は平日の朝8:30~17:00まで
  • 相談する人のレベルにばらつきがある
    ・・・土地評価にあまり詳しくない人や、小規模宅地の特例に詳しくない人もいる
  • 余分なアドバイスはしてくれない
    ・・・「不動産の売却予定はありますか?」等の親切なアドバイスは、基本的にしてくれない

税務署への相談は、事前に電話予約が必要です。
私自身、税務署に「相続税申告書を作りたいので、相談に乗ってもらえますか?」なんてアポイントメントを取って、行ったことはありません。
※税理士なので当たり前ですが(^^ )

ですが、実際に、税務署に相談に行った人の話を聞いたことがあります。
※この方、自分で書こうと直前まで頑張ったのですが、断念して相談に来られました。

この方は、何度も税務署に行き、聞きながら、途中まで申告書を作成していたのですが、それを見ると、

  • 土地評価(不整形地の評価)が間違っていた
  • 名義預金についての説明を受けていなかった
  • (細かいですが)電話加入権の有無についても聞き取りしてくれなかった

ということが分かりました。

これは税務署の人が悪いわけではありません。
税務署は巨大な組織ですし、何より忙しいですから、何かを聞きに行くなら、

  • 自分である程度、調べていく
  • 相談資料を完璧に揃えていく
  • 何度も何度も相談に行く
  • (場合によっては)詳しい人に相談を代わってもらう

というように、頑張って頑張って聞きに行く必要があるんです。
※大変失礼な言い方ですが、お客様(納税者)は、あなた一人ではないんです。その税務署だけで、何百人以上もの相続税チェックをしているんですから。

自分で作成する場合は「早めに」税務署に相談に行く

※某和食屋さんでの写真。

「相続税申告書を自分で作成できるか」について、考えてみました。

私は、なにも、絶対に税理士に依頼すべきだとは思いません。
定年後で時間のある人で、遺産規模が大きくない人であれば、ご自分で計算してみても、ぜんぜんOKというスタンスです。
※実際に自分で申告書を書いて、税務署へ提出している人も多くいるそうですし。

ですが、ご自分で書こうとする人は、まずは「早めに(これ、大切です)」税務署に相談に行くことです。
そのうえで難しそうであれば、早めに税理士に相談に行くことがいいのかな、と思っています。

※税務署の人は、記入方法は教えてくれますが、実際に記入してくれません。また、資料の取り寄せ方も細かく教えてはくれません。

ですから、「早めに動ける人」で、「遺産規模が大きくない人」は、自分で相続税申告書を作れるのではないか?と、個人的には思っています。

※その判断は、完全に自己責任でお願いしますね(^^)

この記事が、ご自分で相続税申告書を作成される方の参考になれば幸いです。

※ですが、少しでも不安なら、税理士に相談する方が良いです。大手税理士法人なんかは、親切丁寧に答えてくれると思いますから。

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