相続税の確認書には、何を記載すべきか?

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相続税の確認書には、何を書くべきなんでしょうか?

これから開業する税理士先生、開業を検討している税理士先生から、色々な相談を受けることがありますが、そのなかに「確認書の書き方」というものがあります。

今回は、確認書のなかでも相続税にしぼって、考えてみたいと思います。

確認書とは何なのか?

税金を計算する際には、税理士は色々な確認をする必要があります。

その確認方法は、計算する税金の種類ごとに異なります。

  • 法人税・所得税
    ・・・この売上は今期の売り上げか?、この領収書は経費なのか?
  • 所得税(譲渡所得)
    ・・・(居住用財産の譲渡特例の場合は)居住期間、居住意思の確認
  • 相続税
    ・・・他に財産がないか、各種特例の前提(どこに住んでいたか等)の確認

特に大切だとされるのが、

  • 所得税(譲渡所得)
  • 相続税

とされています。

これらは、金額も大きくなり、かつ、その判断次第で、税金が1,000万円か、0円かというように、「1(イチ)か、0(ゼロ)か」といった場合が出てくるからなんです。

これらは、税理士がお客様に色々とお聞きして、税金計算をするわけですが、お仕事が終わって数年もたつと、税理士もお客様も、その相談内容・前提とした事実を忘れてしまうことがあり得ます。

ですので、その確認・相談した事項を、忘れないように記録しておくための書類。
それが「確認書」というものになります。

そもそも「確認書」は必要なのか?

年配のあるベテラン税理士先生のなかには、

「確認書なんて、お客さんからもらう必要ないんだよ!」

と、おっしゃる方もいます・・・。

ですが、私は、次の理由から、もらうべきだと考えています。

  • 自分(税理士)が、いつまで生きているか分からない事
    ・・・突然、交通事故で死ぬかもしれない
  • お客様側もずっとお元気でいるか分からない
    ・・・お客様が亡くなって相続がおき、息子さんに代替わりするかもしれない
  • 人間は忘れやすい動物である
    ・・・数年経てば相談内容を忘れてしまう

私の考え方は、

「今まで長期間にわたってご説明した事項について、最後にもう一度確認して頂きたい」

という趣旨で、確認書を頂いています。

確認書を頂くタイミングですが、通常は、全ての業務が終了する直前に、頂くことが多いです。
※相続税の申告書に押印を頂くときに、一緒に頂くことが多いです。

(きちんとした仕事をしている税理士であれば)この確認書を頂く前に、「説明書(または報告書)」を使って、何度も、お客様に、内容をご説明しているはずです。

※私の場合、お客様との打ち合わせの都度、「相続税の説明書(または報告書)」といったタイトルの説明書類をお渡しして、何回かに分けて、内容をご説明しています。

そうすると、ご説明事項が数十件以上になることも多いんです。

その、数十件のご説明事項を、確認書に箇条書きにして、最後におさらいしながら確認いただく。
そんな意味合いから、確認書を頂いています。
※お客様へのご説明をすっ飛ばして、確認書だけを頂くという姿勢は、よろしくないと思います。

ですので、私も、後輩の税理士から相談を受ける場合は、

「お客様にはきちんと説明し、その説明は書面でするようにしてください。紙でもらわないと、お客様は分かりませんから。そして、最後に、確認書で、今までの説明内容をおさらいしてあげてください」

と言うように、アドバイスしています。

「説明を尽くす」

これは、税理士だけでなく、弁護士、司法書士といった専門職であれば、特に意識すべきことです。

私の知り合いの弁護士先生(結構年上の先生)から頂いた、ある名言があります。

以前、その弁護士先生から、ある相続税申告をご紹介頂きました。
そのとき、ものすご~く難しい税務判断を迫られ、かつ、金額も大きい。
私自身、相当悩みました。
そんなとき、その弁護士先生から、次のようなお言葉を頂戴しました。

「石橋先生。要は、お客様に説明を尽くせばいいんですよ。じっくりとね。そうすれば、問題は起きませんし、万が一、起きたときでも、お客様にご理解頂けますよ。だから、じっくりとご説明しましょう!」

お客様に書面でご説明し、数回分の説明書の内容を、最後に「確認書」でおさらいする。
そうすれば、お客様・税理士、両者とも良い関係になれると思います。

なお、税理士会からも、お客様から確認書をもらうように、と指導しています。
※書式は、日本税理士連合会のホームページの会員専用ページからダウンロードできます。

※上野駅にて。

相続税の確認書に記載した方がよい事項とは?

さきほどの日本税理士連合会のホームページの会員専用ページにも、確認書の様式がありますが、そちらには、必要最低限の事項しか、書いてありません。

私なりに、相続税の確認書に書くべき事項を考えてみました。
参考になれば幸いです。

財産の内容を確認したこと

相続税は、通達で、

「財産とは、金銭に見積ることができる経済的価値のあるすべてのものをいうのである」

とされています。

世の中には、色々な形の財産があります。
また、財産がどこにあるか、税理士には分かりません。

ですので、税理士は、財産の一覧表(エクセル等で作るのが一般的です)をお渡しし、

「万が一、この一覧表に載っていない財産があったら、教えてください」

として、確認します。

この確認をした、という意味あいです。

名義預金・名義株式等

相続税は、

「実質的にその財産を持っていた人は誰か?」

ということに着目します。

よくトラブルがおきるのが名義預金(めいぎよきん)です。

※名義預金については、次の記事も参考にしてみてください。

また、名義株式にも注意が必要です。
同族会社の株式を評価する際、法人税申告書の別表2(株主名簿)だけで判断すると危険です。
その株式の実質的な所有者は誰か?
それを、出資時点に遡ってヒアリングする必要があります。

きちんとその説明をして確認しました、という意味合いになります。

みなし相続財産

家族名義の保険で、被相続人が生命保険料を負担していたものがあれば、それは「みなし相続財産」になり、原則として相続税がかかります。

また、遠縁のお孫さんが契約している生命保険の保険料を負担してあげた。
そんな事実がないかも確認しましょう。

生前贈与財産

相続開始から過去3年以内に贈与を受けていたのであれば、「生前贈与加算」の対象となります。

また、相続時精算課税については、過去3年ではなく、永遠に遡って加算します。
※もし、あいまいないようでしたら、税理士がお客様から委任状をもらって、税務署に確認に行く必要があります。

それらはありませんよね?という確認も必要です。

遺産分割について

次の事項もご説明しておく必要があります。

  • 遺産分割のやり直しは、原則としてできないこと
  • 1次相続、2次相続についても説明を受けたこと

民法上は遺産分割のやり直しができますが、税法上は出来ません。
※相続税の申告期限内であれば、やり直しができるという説もあります。この辺りは、税理士によって判断が分かれるでしょう。ただし、遺産分割の結果を受けて、既にその内容で不動産登記をしてしまったら、原則としてやり直しはできないと思われます。

ですから、遺産分割は、慎重に行う必要があります。

また、比較的短期間で(数年以内くらいで)連続して相続が起きそうな場合は、1回目の相続(1次相続)と、2回目の相続(2次相続)との合計額で相続税を試算します。
そして、その内容も踏まえて、最初の遺産分割を決める必要があります。

これらの内容をご説明をしたという確認になります。

小規模宅地の特例

相続税を計算する際、

  • 被相続人が住んでいた土地
  • 被相続人が貸していた土地

といった財産がある場合、細かな条件を満たしていれば、相続税が安くなる特例を受けることができます。
※「小規模宅地の特例」と呼ばれるものです。

この条件は、簡単に判断できる事項(相続人が被相続人と同居していた等)であれば、細かく説明する必要はないでしょう。明らかに、適用を受けることができますから。

ですが、特定居住用宅地で、同一生計要件が必要な場合や、被相続人(または相続人)の転居が相続直前に複数回行われていた場合、相続人の国籍確認が必要な場合、といったようにイレギュラーな内容がある場合は、

「**という事実を前提として、小規模宅地の特例があるものとして計算しております」

という記載が必要になるでしょう。

さらには、小規模宅地の特例は、原則として「選択換え(当初選択した土地と、違う土地から小規模宅地を使うこと)はできない」ということも、説明しておく必要もあります。

必要資料を全てお渡し頂いた旨

「***という資料をください」

とお客様にお願いしても、お客様もお忙しいので、うっかりして税理士に出し忘れることもあるでしょう。
その場合、税務調査があって税金が増えることも考えられるので、

「税理士から請求された資料は、全て提出しました」

旨の確認も必要になるでしょう。

納税方法の確認

相続税の納税方法として、

  • 金銭納付
  • 延納(金銭で分割払い)
  • 物納(お金ではなくモノで納める)

があります。

たまにトラブルが起きるのが、「物納」です。

相続税は、相続開始日時点の財産を、「相続開始日現在の評価額」で計算します。
ということは、相続開始後に大暴落?した上場株式がある場合、大暴落前の高い価格で、税務署に現物(上場株式)で納税できるかもしれません。

※ただし、「金銭納付困難理由」を満たす必要があります。これが厳しいんですが・・・。

実務では、9割以上が金銭での一括納付でしょう。
しかし、万が一があります。税理士側も納税方法の詳細を確認し、お客様に最適な納税方法をご説明しましょう。

連帯納付義務について

相続税は厳しい税金で、ある相続人が相続税を払わなかった場合、その未納の相続税について、他の相続人に請求が行くことがあります。

この「連帯納付義務」についてですが、たま~にですが、きちんと払わない人もいるようなので、全員にご説明しておきましょう。

測量後の修正申告・更正の請求

相続財産のうち、土地があった場合は、測量にも注意が必要です。

相続した土地が測量されていない。(登記地積100㎡で相続税申告)
売却するために、測量した。(実際は130㎡だった)

この場合、土地の面積(地積)が増えたので、原則として、相続税の修正申告が必要となり、過少申告加算税もかかります。
※逆に、土地の面積が多きすぎたら、更正の請求もできるでしょう。

これも、たま~にですが、測量して土地面積が大幅に増えた場合、税務署の担当官から、

「**先生~。A土地の地積、最近、測量して、実際と違っていたでしょう?修正申告をお願いしますね~。」

と、電話がかかってくることがあります(>_<)

このケースは、結構ありますので、お客様に予めご説明しておく必要があります。

税務調査について

相続税の税務調査の確率は、「約2割~3割」と言われています。

また、相続税の税務調査の特徴として、

「お客様(納税者)は一般人である」

ということが挙げられます。

我々税理士が、日頃から接しているお客様(中小企業の社長様・個人事業主様)は、ご自分でビジネスをしていますし、税務調査とは何なのか、ご理解頂けています。

ご理解のある社長様は、

「まあ、税務調査があったら、何かしら見つけて税金をとっていくよね~。あちらも、それが仕事だしね。」

と、おっしゃって頂きます。

ですが、普通の方(サラリーマン、公務員、専業主婦)の方々は、そのようなご経験がありませんから、税理士に頼んだら、絶対に正しい税金であって、1円たりとも誤差はない、とお思いかもしれません。

そのため、

  • 税務調査がある可能性が、普通の税金よりは高いこと
  • 税務調査があった場合、本体の税金(本税)以外に、過少申告加算税、延滞税等がかかること
  • 財産を意図的に隠した場合、重い罰金(重加算税)があること

といったことをご説明しておくべきです。

相続税の取得費加算

相続財産を、相続税開始から「3年+10ヵ月」以内に譲渡した場合、譲渡所得の計算上、支払った相続税の一部が経費となる制度があります。

そのため、もし、土地等の売却を考えているのであれば、

「この期限内に売却すると、**くらい所得税(+住民税)が安くなる可能性があります」

といった説明も必要でしょう。
※具体的な金額は、確認書ではなく、それまでの「説明書」で説明しておくと良いと思います。

未分割であった場合の更正の請求等

遺産分割が未分割で、相続税申告書を提出することもあるでしょう。

この場合、相続税が安くなる特例(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例等)が使えません。

ですが、後日、遺産分割が決まった場合、更正の請求をして、相続税を安くすることができます。

この場合、更正の請求の期間制限(原則として遺産分割が決まった日から4ヵ月以内)がありますから、その点について説明が必要です。

相続税申告書を提出すると、いったん業務終了となるので、税理士とお客様とで接点がなくなってしまいます。
そのため、「

遺産分割が決まったら、必ず、何ヶ月以内に、税理士に連絡してくださいね。でないと、税金が安く出来ませんから!」

ということ、お伝えしておくべきです。

さらには、未分割で申告期限から3年を経過した場合、2ヵ月以内に「やむを得ない事由承認申請書」の提出が必要である旨も、説明しておいた方が良いでしょう。

遺言書

遺言書があるか、ないか、微妙な事案もあります。

公正証書遺言であれば、原則として、公証役場で遺言検索できますので、調べられるでしょう。
※ただし、平成以後に作成したもののみ。

ですが、自筆遺言ですと、すぐに見つからず、数年後に見つかる可能性もあります。

そのため、被相続人(例えば、お爺さま)が、

「遺言を作っておいたからな!」

とおっしゃっていたのに、見つからなかった場合で、相続人全員で遺産分割した場合、税理士としては、その遺産分割の内容で申告するしかありません。

ですので、遺言書があるか、ないか、微妙な場合は、

「遺言書がないものとして計算しました」

という確認も必要になるかもしれません。

説明書の内容

確認書を頂く前に、既に何度もお客様(相続人)と打ち合わせをして、説明書(報告書)を何枚か、お渡ししていると思います。

ですが、その説明書。
数年後に、お客様が、紛失してしまうかもしれません。
また、お客様も、その内容をお忘れになってしまうかもしれません。

ですので「*月*日、*月*日の説明書の内容について、不明な点は税理士に確認しました」といった内容を記載すると、税理士、お客様、双方に間違いがないかもしれません。

※某高層マンションにて。

確認書を書くためには、経験が必要

上記以外にも、色々な確認事項が出てくると思います。

※土地評価の細かな点や、この財産は**という前提で評価しました、という事項のようにです。

私が思うに、確認書に何を記載すべきかについては、実務を多く経験しないと、分からないと思います。

※先程の「相続後に測量した場合の修正申告」といった事項は、その最たる事例だと思います。税務署から電話がかかってくると、ドキッとしますよね(-_-)

ですので、なかなかマニュアル化するのは難しいと思います。

また、

「確認書をもらっとけば、何も心配することはない!」

と断言されている、有名なベテラン税理士先生もいらっしゃいます。

ですが、そうではないと思います。

確認書は、あくまで、最後の確認的な意味合いで作るものなので、それまでに、お客様に

「ご説明を尽くす」

という作業が必要です。

相続税は法律できちっと解釈できないことが多く、グレーゾーンが多いんです。
そんな状態でも、きちんとご説明すれば、ほとんどのお客様は、その場で、きちんとご理解頂けます。
その、「きちんとご理解頂いた」ということを、後日、確認するための「確認書」なのです。

どうしたら、お客様にご納得頂けるのか?
どうしたら、お客様にご満足頂けるのか?

毎日、考えて仕事をしたいものですね。

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